4.もうすこしだけ、このまま
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ここに連れてこられて、魔道兵器をたくさんつくるようになって。
しばらくたったころ、1人の魔力持ちにつかみかかられたことがある。
目標に取り憑いて、爆発的に燃える銀色の蝶。わたしがつくった、魔道兵器。
地上の守りが厚くて手こずっているという話だったから、空から攻撃できる兵器を開発した。
そのころはまだ、宙に浮かぶ兵器なんて誰にも作れないと思われていて。だから、わたしがつくったその魔道兵器は、偉い大人たちに高く評価された。数年経った今でも、そんなものをつくれるのはわたしだけだ。
そのひとは、それに故郷の街を焼かれたらしい。
魔力を持っていたから、大やけどを負っても生きのびて、研究棟に連れてこられて。
そのときはまだ地上にあった研究室に押しかけてきて、わたしの首をしめようとした。
すぐに兵士がとんできて、彼は引きずられていったけれど、そんなことがあったからわたしの研究室は地下に移された。
もともとそれほど多くの人と交流があったわけではない。けれど、幼いわたしを気にかけてくれる人たちは何人かいた。
そのだれとも、話せなくなった。
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「今日までに終わらせるという話だったはずだ」
「思ったより弱ってたせいで最初の調整に時間がかかったのよ……体調も考えずに、いそいで連れてこさせたからよ」
痩身で、厳めしい顔をした初老の男は、目をすがめてわたしを見た。
「おまえが無茶な要求をするからだろう。すこし、目に余るぞ」
「……明後日の前線輸送には間に合わせるわ。それで問題ないでしょう?」
軍服の襟元をととのえた男は、苛立ちがにじむため息をつく。
「事前演習に使用できないのでは、こちらもいささか困るのだが……おまえには、今後も期待しているんだ。あまり失望させないでくれ」
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「……いまの人、大総統だよね?」
ラジュは、やや引いた顔をしていた。
「この国で一番えらい大人らしいわね」
どうでもいいけど。
いつものように作業机のそばの椅子に座りながら、きいた。
「体調、へいき?まだ寒い?」
「少し」
魔動人形の開発は、最終段階に入っている。
無機物のミスリル鋼鉄と、有機物の人の身体を1つにする作業は、人への負荷が高い。
半無機物の魔導結晶を介さずに、魔力を直接エネルギーとして取り出すには、人のからだを無機物に近づける必要があって、その過程でラジュは眠りにつく。そして1日の調整を終えた彼が目覚めるときには、ひどく身体が冷えている。
血色のない頬に、色のひいたくちびる。だいぶ震えはおさまったようだけど、あまりいい状態では無い。
「これ、ありがとう。すごくあたたかい」
ラジュは手元の、人肌ほどの熱を発する魔道具を示した。
両手で包み込めるほどの大きさをした、楕円体。
はめ込まれた、小指ほどの大きさの魔導結晶が橙色に光り、一定のリズムで、わずかにその輝きを変化させていた。
わたしは肩をすくめる。
「そんなものでも、役に立つならよかった」
「すごいよこれ。雪国で使えたら、すごく喜ばれると思うな」
「兵器じゃない魔道具なんて、つくったってしょうがないじゃない」
「ここには、こんなにたくさんあるのに?」
棚いっぱいに詰め込まれ、いくつかは机の上にまではみ出している、たくさんの魔道具。
「それは……素材があまっていたから」
やや歯切れの悪いわたしの返しに、ラジュはおかしそうに笑った。
「……馬鹿にしているの?」
「してないよ。そんなわけない」
麻色の瞳が、わたしを見る。
ラジュがときどきわたしに向ける、まぶしいものを見るような目。
「アネットは、ほんとうにすごい」
「……当然よ。わたしは天才なんだから」
急激な体温の変化は、ひとの身体に大きな負荷をかける。輸送の日まで、動力部に入ったまま眠り続けるのであればそれだけラジュの消耗は抑えられるし、調整も楽になるはずだ。
……それは、わかってる。
そのほうが合理的で、国のどうぐとして正しいってことも、わかってる。
わかってるのに。
ふっと、ラジュが息を吐いた。
「……しんでも、いいと思ってたんだ」
ぽろりと、こぼれ落ちたような言葉だった。
「生きてたってくるしいだけで、いいことなんてぜんぜんなかった。
役たたずだ、はやく死ねって、ずっと言われてたから、さいごに部品としてでも必要とされるなら、それでいいかなって。……でも、今は」
目を、ふせる。
「……このまま目覚められなくなるのが、ちょっとだけこわい」
「っ……!」
彼も分かってる。
魔動人形は、魔力持ちを生きて帰すつくりになっていない。
ラジュは、死ぬ。その生命が尽きる時まで、魔力を絞り取られ続けて。
魔動人形は、魔力持ちを使い捨ての動力源として動く、強力な殺戮兵器だ。
そういうふうに、わたしがつくった。
顔を上げた彼は、にがい顔をしていた。口にしてしまったことを、後悔している顔だった。
「……ごめん。こんなこと言っても、きみを困らせるだけなのに」
「…………わたしの生まれたところは、当時の前線に近くて」
唐突にはじめた、わたしの脈絡のない話に、ラジュは耳を傾けてくれている。
「こわれた魔道兵器がその辺にたくさんころがってたから、それを拾い集めて組み立てて、あそんでた」
いつからそんなことをしていたのか覚えてないけど、それが軍部まで伝わってここに連れてこられた。
「魔道具をつくること以上にたのしいことなんて、ないと思ってたの。だって、私のまわりには、素敵なものも、きれいな景色も、なんにもなかったから」
砂嵐が吹きすさぶ、一面の荒野。かすかに記憶に残っている、荒れた赤い大地の色が寒々しくて、嫌いだった。
しあわせだと思えたのは、魔道具をつくっているときだけだ。
「それは今も、あんまり変わってない。だけど……わたしも、あなたと話すのは、楽しくてすき」
ラジュは心底うれしそうに、目を細める。ついで発した言葉は、わたしを気遣う響きを帯びていた。
「つらくは、なかった?」
「……どうして?」
魔道兵器をつくるのは、ずっと楽しかった。自分を死地に連れていく、魔動人形をつくっている時でさえも。
つらいというのなら、あなたのほうが、よほど。
「だって、ずっと……1人で。
きみは、こんなにもたくさんのことを知りたがっているのに、ここに閉じ込められて、どこにも行けないから」
……どうしてそうやって、わたしが気がついてほしくなかったことに気づくのだろう。
ラジュは、やさしすぎる。
目覚められなくなるのはこわいと、死ぬのはこわいと言っているのに、こんなにも。
「……あの魔動人形、ね」
「うん」
「最初は、わたしが動力になるはずだったの」




