2.天才少女がしりたいこと
魔道兵器は、魔導結晶を嵌め込んで動かす、この国独自の武器だ。既存の兵器とは比べものにならない、強大な力を発揮する。
この国は、魔道兵器の製造方法を秘匿し、占有することによって、開戦から20年で、現存する全大陸の7割を支配した。
-*-
「どうだった?」
魔動人形の動力部を開き、少年が起き上がるのに手を貸しながら、わたしは問いかけた。
「…………さいあく、かも」
青い顔で、彼が答えた。
ふらついた拍子に魔動人形から落ちそうになったのをとっさに支えて、2人で魔動人形の上からおりる。
「ずっと、流星雨のなかにいるみたいだった」
ぽつりと言った彼の顔を、わたしは見返した。
「……流星雨?」
「小さい白い光が、たくさん。目の前をふさぐみたいに、ちかちかして」
「ああ、魔力酔いのこと」
細い回路に注がれてあふれた、行き場のない魔力が逆流したときの症状。
「きれいだけど、流星雨とちがって、ずっと見てるとくらくらしてきて……すごくつらい」
しんどそうに息を吐く。
やはり、持っている魔力の量が想定よりもはるかに多い。魔動人形側の回路をもうすこし太くして強化しないと。
頭の中では、次の作業工程を組み立てようとして。
……だけど、それよりも気になったことがあった。
「流星雨って、あんな感じなの?魔力酔いみたいな」
彼は少し目を見開いてわたしを見た。驚いたようだった。
「……きみは、流星雨を見たことがないの?」
「わたし、魔道兵器開発研究棟から出られないもの」
魔力酔いはもちろんわたしも経験があるけれど、流星雨を見たことはない。
辺境では、冬になると頻繁に星が降る。そう、文献で読んだことがある。
空からこぼれ落ちた星は、雲をつくり、翌日には大量の雪を降らせるのだと。
彼は、眉をひそめた。必死に、なにかを考えるみたいに。
「……ええと……ぼくは、すごく近いとおもう」
それは、自分の考えを口にすることをすこし恐れているような。
「へぇ」
胸の内が、そわつく。
心の奥底で、わたしの生まれもった大きな大きな知的好奇心が騒いでいる。
「ききたいことがあるの」
「……なに?」
「あの、ね」
両手の指先を自分の胸の前で意味もなくからませる。
「北の湖は、氷が割れるとき、大きな白い蛇が通ったみたいになるってほんと?」
「……ああ。蛇の氷わたり」
「向こうじゃそう呼ばれてるのね?」
身をのりだすと、彼はたじろいだ。わたしは黙って続きを待つ。やがて彼はぽつりぽつりと話し始めた。
「雪月華、の季節になると……北の湖は…ぜんぶ、こおって」
たどたどしい細い声が、わたしの胸に、しんと落ちる。
「……春雲雀が渡ってくるころ、一気に割れる。すごく、大きい音がするんだ。雷みたいな」
「雷?」
髪と同じ、くすんだ麻色の瞳が、わたしを窺い見た。
「……あ……もしかして、雷も、聞いたことない…?」
「ない。それか、あってももう覚えてない。どんな音がするの?」
「え、ええと……そうだな……強く、耳をふさいだときの音をすごく大きくして、短くしたみたいな」
流れるように耳をふさいだわたしに、彼は目を白黒させる。
重い、低音。
これを、すごく大きくして、短くした音が。
「……そうなんだ」
こもった自分の声が、反響してわんと響いた。
上気した頬が熱くて、柄にもなく興奮しているのを自覚した。新しい魔道具の調整がすごくうまくいった時と、同じくらいわくわくする。
ぱっ、と耳から手をはなしてまた身を乗り出した。
「雷って、光るのよね?どんなふうに光るの?」
「……空が、白く光るんだ。えと……ヒビが入ったみたいに」
「空にヒビ!?魔法ではないのよね?」
「ちがうと、思う。魔導結晶も、魔道兵器も、ぼくの住んでたあたりには、なかったから」
_____知りたい。もっと、もっと。
「雪国には虹色に光る樹があるってほんとう?」
「聖針樹のことかな……」
「じゃあほんとうにあるのね!!」
魔法とは別のちからで光るのだと、遠い昔に本で読んだ。実在するのなら、どういう原理なんだろうか?
「ねぇ、それなら……____ええと」
相手に呼びかけようとして、言いよどむ。
「……あなたのこと、なんて呼べばいいかしら」
石に刻まれたみたいに硬かった表情が、やわらかく動いて。彼は、どこか照れくさそうに笑った。
「ラジュって、よんで」
ずいぶんとうれしそうな笑顔だった。
ラジュは、ちいさく首をかしげる。
「……きみは?」
「アネット」
自分の名前を口にするのは久しぶりで。なんだか胸のうちがこそばゆかった。
-*-
ラジュは、わたしの知らないことをたくさん知っていた。
誰かと話をすること。話を聞いてくれる誰かがそこにいること。
それはきっと、生きたいと思うのに必要なことなんだと思う。
知らないままなら、望まずに済んだ。
それでも、あなたが願ってくれたから。わたしはこたえたいと思ったの。




