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第4話 四つ葉と友人

「いつもより世界が輝いて見える……!」

「そろそろ余韻から抜け出してくれないかしら」


 翌日。

 幸奈は軽やかな足取りで教室に向かい、鼻歌を歌いながら自身の机に座る。

 窓から射し込む太陽の光は明るく、天気も朝から予報通りの快晴だった。校舎に飾られている四つ葉の校章も太陽の光に反射し、キラキラと輝いていた。


 私立四葉(よつば)学園高校。

 一般的な私立高校だが、精霊を連れての登校も可能で、精霊たちが快適に過ごすための設備も整っている。

 そんな四葉学園高校には、チーム制度という独自の教育プログラムが存在する。

 学年は問わず、最大五人まで自由にメンバーを集めて自由に課外活動を行うことができる。部活動の延長で集まったり、将来の方向性が合う者同士が集まったりと、活動内容は生徒たちに一任されている。課外活動を行うチームは月に一度活動報告を行い、活動実績がそのまま自身の成績に加点される。

 そのため、チームを組むこと自体は自由だが、ほとんどの生徒がチーム制度を利用している。


「もう少ししたら、ここにいるよりたくさんの精霊たちに会えるんだね……!」


 教室内にいる精霊たちを、幸奈は肘をつきながらうっとりと見つめる。


「おはー」


 後ろからかけられた声で幸奈は現実に引き戻される。だが元気は衰えず、勢いよく声のした方に振り返った。


「みのり! おはよー!」


 とびきりの笑顔を向けられた少女――運上(うんじょう)みのりは、幸奈の勢いに圧倒されながら幸奈の後ろの席につく。


「朝から元気すぎるけど、なんかあった?」

「ふっふっふっ、聞いて驚け……あたしたちのチームは、念願の精霊界に行けることになったのだ!」

「へー。おめでとー」


 幸奈の教室に響き渡る声に反して、平坦な祝いの言葉をかけるみのり。

 時間割を確認しながら授業の準備を進めていて、幸奈の方はちらりとも見なかった。


「もっと喜んでよー!」

「はいはい。あたしの分も代わりに幸奈が喜んで」


 手足をばたつかせる幸奈をみのりは適当に受け流す。

 みのりはロングヘアをツインテールに結んでいる可愛らしい容姿をした少女だが、中身は誰よりも現実的でサバサバとしていた。


「みのり、幸奈は昨日からずっとこんな調子なの。許してちょうだい」

「なるほどね。シルフも祈本先輩も幸奈の子守りは大変だねぇ」


 むくれている幸奈に視線を移して、みのりはふっと笑う。


「幸奈はずっと精霊界に行きたいって言ってたからね。せっかくの機会だし楽しんできなよ」

「うん! 色んな精霊と仲良くしてくるね!」

「行くのはいいけど、チーム活動ならレポートとか出すんじゃないの? 大丈夫?」

「みんなに言われるけど大丈夫だもん! あたしはちゃんと考えてるよ!」


 頬を膨らませる幸奈を、みのりは「ごめんごめん」と宥める。


「じゃあ、これで幸奈はまた新しい伝説を残したかぁ」

「伝説?」


 きょとんとしている幸奈に、「そうだよ」と可笑しそうに笑うみのり。


「入学式のときの自己紹介なんて、あたし一生忘れないよ」


 ――春風幸奈です! こっちは親友のシーちゃんです! シーちゃんは四大精霊だけど、気軽に話しかけてください!


「四大精霊と気軽に話せなんて、あたしたち人間ならまだしも、精霊たちがドン引きしてたじゃん」

「えぇ? 日向とみのりはあたしとシーちゃんとすぐ仲良くなったし、クラスの皆とも普通に話してるよ?」

「そりゃ今はね。最初は色んな人から『どうしたら春風さんとシルフさんと仲良くなれますか!?』って相談されたんだから」


 みのりが「ねー」と近くにいたクラスメイト数人に問いかけると、全員が笑いながら同意した。なにも言い返せなかった幸奈はぐぬぬ、と顔を顰める。


「知らなかっただろうけど、幸奈がチーム作るってなったときも話題になってたからね。あの幸奈が誰を誘ったんだって」

「……あたし、話題になりすぎじゃない?」

「だから伝説残しすぎだって言ってんの。でも、幸奈の行動力は尊敬するし、そのおかげで精霊界も行けるようになったんだろうね」


 幸奈に優しい微笑みを向けたみのりは一転して椅子に寄りかかり、ニヤリといった表情を浮かべる。


「まぁ、精霊界は誰かさん以外の成績のおかげで行けるようなもんだからねー!」

「おい、聞こえてんぞ」


 みのりの声に応えたのは、いつの間にか二人の横に立っていた日向だった。

 じろりと見下ろす日向にみのりは一切怯まず、鼻で笑いながら日向を迎えた。


「おはようございまーす。全教科赤点ギリギリの結城日向くーん」

「んだよ、赤点じゃなかったんだからいいだろ!」


 みのりの横の席にどかっと座り、鞄を乱雑に置く日向。


「ていうか、さっきのは結城のことなんて誰も言ってないけどねー?」

「……お前、本当いい性格してるよな」

「褒めてくれてありがとーう!」


 ニヤニヤと笑うみのりに反論できず、日向は悔しそうに顔を歪める。

 二人の会話を呆れ顔で見守っていたフレイムは、どこか気まずい表情をしたシルフに気がつく。


「シルフ、どうした?」

「……日向の影に隠れてるけど、幸奈も何教科か怪しかったのよね」

「あいつが酷かったせいで、幸奈は問題ないように見えたんだろう」

「……やっぱり、お互い大変ね」

「そうだな」


 二人の会話は机の下で内密に行われたおかげで、本人たちには聞かれずに済んだ。


「運上の成績を全教科超えたときは、『今までからかってすみませんでした結城様』って言わせてやるからな! ついでに学食を一週間分奢ってもらう!」

「今超えてるのって体育だけじゃなかった? 卒業までに達成できそうー?」


 みのりの挑発的な視線に、日向はわなわなと拳を握りしめる。

 いつもの他愛ないやり取りだと、幸奈は二人のやり取りを止めることなくにこやかに見守っていた。


「で、話を戻すけど。精霊界はいつ行くの?」

「今月末の土曜日!」

「へー、結構早いんだ。気をつけてね」


 授業の準備をする手を再開しながらみのりは答える。


「てか、運上は精霊界に興味ないのか? 成績いいんだから、チーム組んで精霊界行きたいですとか言えば行けるだろ」


 椅子に背を預けながら問いかける日向に、みのりは手を止めて気怠そうに肘をつく。


「あたしは興味ないかな。人集めるのも大変だし、そもそも精霊と契約してないし」

「みのり、精霊と契約してなくても精霊界は行けるよ!」

「体裁として。契約してた方が聞こえはいいでしょ」

「精霊界に行ったら会えるかもしれないよ!」


 幸奈の純粋な瞳に、みのりは肘をついたまま大きな溜め息をつく。


「精霊界にどんだけ精霊がいると思ってんの。適当に会った精霊に契約してくださいってお願いしてもできないんだから」


 精霊は人間と誰彼構わず契約しているわけではない。

 精霊が人間界に訪れて契約する相手を探すとき、本能から感じた人間とだけ契約する。出会った人物こそが自分の力を最大限活用してくれると、精霊は無意識下で判断している。

 そのため、契約する精霊と人間は互いに惹かれ合い出会うべくして出会った、お互いを補い合う運命の相手と言われている。


「よく運命の相手って言われてるけど、あたしはそんなの信じてないから」

「あたしと日向はシーちゃんとフレイムに会えてるし、みのりもきっと会えるよ!」

「はいはい。あたしは二人のお土産話を楽しみにしてるよ」


 軽く流したみのりの言葉と重なるように、始業を知らせるチャイムが鳴った。


(運命の相手ねぇ……)


 ホームルームの間、みのりは机の中で隠れて動画サイトを開いていた。

 動画を見ようとしたところで、人間と精霊がスポーツをしている広告が流れる。広告を無表情で眺めていたみのりは一瞬蔑むような目をしたあと、何事もなかったように広告をスキップした。


『あとで、昨日見つけた動画教えるね!』


 動画の再生が始まると同時に、幸奈からのメッセージが届く。

 前でこそこそとしている幸奈を見てみのりは小さく笑い、『おっけー』と返信をした。

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