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第35話 非日常と幼馴染

 幸奈たちが事件を解決してから二週間が経った。


「瑞穂ちゃん、みのり! おはよー!」


 幸奈の朗らかな声が正門に響く。幸奈の声に、前を歩いていた瑞穂たちは足を止めた。


「おはよう、幸奈」

「おはー」


 幸奈の笑顔は二人の横にいたセレンとフォーチュンに移る。


「セレンとフォーチュンもおはよう!」


 セレンはたどたどしく、フォーチュンは穏やかな笑みを浮かべて挨拶を交わした。


「それにしても、今日の授業やだなー。本当に全部小テストやるの?」

「もしかして、予習してない感じ?」

「ばっちりやってるよ! 今回も全部いい点取るもん!」


 むくれる幸奈に、みのりは「ごめんごめん」と苦笑しながら幸奈を宥める。


「それじゃああたし日直だから、先行くね!」


 駆け足で校舎へと向かう幸奈。幸奈の背中が遠くなったところで、みのりは大きく伸びをした。


「あれから二週間か。時の流れは早いねぇ」

「……運上さん。幸奈からはなにも聞いていないのよね?」


 瑞穂の問いにみのりは頷き、「クラスでも幸奈からシルフの話は一切出てこないし」と付け加える。


「でも、再会したら幸奈から言ってくれるだろうし。あたしはいつまでも待ってるつもり」


 みのりはへらりと笑い、校舎への歩みを再開させた。


「はよー」


 瑞穂たちが振り返ると、眠そうな顔をした日向と足元で呆れているフレイムがいた。


「おは。結城も、幸奈からはなんにも聞いてないよね?」


 なんの話、と言いかけて日向は察した。今の幸奈にとっての話題はシルフしかないと。


「聞いてねぇな。学校に来てるから誰にも会いたくないわけじゃないだろうけど……どうなんだか」

「さぁね。幸奈も色々考えてるんでしょ」

「幸奈もそのうち言ってくれるだろうし。それまで待ってればいいよな」


 欠伸をこぼす日向。顔を上げると、みのりがじとりとした目で日向を見つめていた。


「……あんたと同じ思考回路なのがなんか気に食わない」


 冷静に、みのりは日向に言い放つ。日向は「んだと」とみのりにガンを飛ばし、見慣れた他愛ない言い合いが始まった。

 二人の後ろでは、尾鰭の下がったセレンが指先を合わせて突いていた。


「早く、元気なシルフ様にお会いしたいですね……」

「俺たちは待つことしかできないからな」


 フレイムの返答に、セレンは「そ、そうですね……」と眉を下げる。セレンを慰めるように、後ろからフォーチュンがセレンの背中を優しく撫でる。


「私たちはいつも通りにして、ゆっくりと幸奈さんたちを待とう」

「フォーチュンの言う通りね。私たちが落ち込んでいるわけにはいかないわ」


 瑞穂のフォローも入り、セレンは「は、はい……!」と力強く頷いた。


「颯太先輩、おはようございます!」


 幸奈の廊下に響き渡る声は、職員室から出てきた颯太に届いた。颯太は多少驚きながらも、幸奈に挨拶を返した。


「先輩。お休みから戻ってきてから、なにか悩みとかありませんか?」

「特にないな。クラスメイトもいつも通りだし、なにより祈本とプレアがいてくれるから、以前と変わらない過ごし方ができてる」


 それは良かったです、とニコリと笑う幸奈。笑顔を崩さない幸奈に、颯太はほんの少し表情が陰る。


「……春風は、なにか悩みとかないか?」

「うーん、今日は小テストがいっぱいあるのでちょっと憂鬱ですね。あ、ちゃんと予習はしましたよ!」


 幸奈は手を腰に当てて自慢げに答える。


「それじゃあ、あたしはこれで――」

「春風」


 職員室に入ろうとした幸奈を呼び止める颯太。幸奈が振り返ると、颯太は真剣な表情をしていた。


「俺で良ければいつでも相談に乗るからな。……春風の気持ちも、俺ならよく分かるから」


 精霊を失った者同士だから分かることもある。颯太は口にはしなかったが、伝わって欲しいと心の底で願っていた。叶うならば、少しでも頼って欲しいと。


「心配してくれてありがとうございます。でも、あたし一人で頑張れますから!」

「……そうか」

「先輩も、悩みがあればいつでもあたしに言ってくださいね」


 いつもと変わらない笑顔で幸奈は職員室に入っていく。颯太はそれ以上幸奈を引き止められなかった。


   * * *


『――だから、今度幸奈たちも一緒にどうかなって』


 画面の向こうで凜は幸奈に微笑んだ。

 夜、幸奈は凜とラインとビデオ通話をしていた。画面の向こうでは、ラインが凜にぴったりとくっついて満面の笑みを浮かべていた。


『その遊園地ね、観覧車がとっても大きいの。みんなで行ったら絶対楽しいよ!』

「そこって色んなアトラクションがあるよね! 中間テストが終わったらみんなで予定合わせよっか!」


 他にはこんなアトラクションがあってね、と嬉々として説明していくライン。幸奈はベッドの上でクッションを抱えながら、画面の向こうのラインを微笑ましそうに見つめていた。


『ねぇねぇ、幸奈』


会話を止め、思い出したようにラインは幸奈に問いかける。


「どうしたの?」

『シルフとはまだ会えてない?』


 ラインは心配そうに幸奈を見つめる。凜もラインの横で不安そうにしていた。


「……多分、もう少しで会えると思う!」


 笑顔の幸奈に言われ、つられてラインの表情がパァッと明るくなる。


『あのね、シルフとまた会ったら話したいことがいっぱいあるの!』

「あたしもたくさんあるよ。だから、それまでたくさん話題を溜めておこっか!」


 それから十五分ほど盛り上がり、ビデオ通話は終了した。画面が暗くなったのを確認し、クッションを抱えたまま幸奈はベッドに寝転んだ。


(もう二週間経ったのか……)


 天井をぼんやりと眺めながら、リヒトの研究所での出来事を思い返していた。

 あの事件でリヒトは逮捕された。精霊の力によってリヒトの記憶は消え続けていたが、幸奈たちのおかげで警察は事件の全容を把握できた。

 みのりと颯太はリヒトに騙されて協力していたため、罪には問われなかった。また、精霊研究を行う者の今後の信用に関わるため、一連の事件はニュースに載ることはなかった。

 そして、幸奈とシルフは未だ再会できていなかった。精霊王が言っていた生命核の回復がどのくらいかかるのか。幸奈にそれを知る手段はなかった。


(契約してたら、シーちゃんが元気なのかも分かったのかな……)


 幸奈はカーテンの隙間から見える、星が瞬く夜空を見上げる。


「……甘いもの買いに行こ」


 静かに起き上がって置いていたスマホを手に取り、幸奈は一人外に出た。


 コンビニでチョコレートやグミなど、目につくお菓子をとにかく買い、幸奈は帰路についた。

 上の空で歩いていると、ブランコとすべり台とベンチしかない公園が目についた。そこは精霊界に向かう前、シルフと洸矢と話をした場所だった。

 導かれるように幸奈はふらりと公園に入り、ブランコに腰掛ける。漕がずに地面に足をつけたまま、ゆらゆらと揺れていた。


「幸奈?」

「洸矢兄と、プレア?」


 幸奈を呼んだのは洸矢だった。カジュアルな服装をした洸矢の横にはプレアもいて、不思議そうに幸奈を見つめていた。

 洸矢たちと会うとは思わなかったのか、幸奈も足を止めて洸矢たちを見つめ返した。


「幸奈さん、こんな遅くにどうしたんですか?」

「甘いもの食べたくなって買いに来たの!」

「そうだったんですね。暗いですし、一緒に帰りませんか?」


 送りますよ、と微笑むプレアに、幸奈は笑顔で首を横に振る。


「もう少しだけ遊ぼうと思う!」

「一人じゃ危ないだろ」


 溜め息をついて、洸矢は幸奈の隣のブランコに腰掛ける。洸矢はブランコに揺られながら夜空を見上げる幸奈をちらりと見て「そういえば」と話を切り出す。


「最近は勉強を教えてって言う回数も減ったよな」

「みんなに頼ってばっかりだったから、一人で頑張ろうと思って!」


 幸奈は誇らしげにガッツポーズをする。自信満々な幸奈に洸矢は小さく笑う。


「周りは幸奈に甘えて欲しいって思ってるけどな」

「そんなことないよ。今までみんなに甘えすぎてたもん」


 袋からチョコレートを取り出して一粒口に入れる幸奈。「洸矢兄とプレアにもあげる!」と一粒ずつ手渡した。


「幸奈だからいいんだよ」


 チョコレートを口に入れて洸矢は幸奈に視線を送る。洸矢の視線はとても優しかった。


「幸奈を支えたいって思ってるからみんな甘やかすんだよ。危なかっしいけど、幸奈が進む方向には間違いなく面白いことがある。だから気になって幸奈についていって、ついていった全員で幸奈を支えてる。俺だけじゃなくて、みんなそう思ってるよ」

「そう、なんだ」

「一人で頑張るのもいいけど、幸奈は周りに甘えていい。それも含めて幸奈のいいところだ」

「……そっか」


 幸奈はブランコから立ち上がり、いつもの太陽のような笑みを洸矢たちに向ける。


「ありがとう、洸矢兄にプレア! 明日からはみんなを頼ることにするね!」

「幸奈さん」


 幸奈の目の前にプレアが立ち、幸奈を見上げながら微笑みかける。プレアの微笑みは慈愛に満ちていて、幸奈はどこか安心感を覚えた。


「みんな幸奈さんのことを分かっています。頑張って明るく振る舞っているのも、もちろん知っていますよ」

「そんな、あたし元気がないわけじゃ……」

「幸奈さん、少し屈んでください」


 言われた通りに屈むと、プレアは背伸びをして幸奈の頭をぽんぽんと撫でた。


「よく頑張っていますね」


 ニコリと微笑むプレア。洸矢もブランコから立ち上がり、プレアと同じように幸奈を撫でる。


「幼馴染なんだから。俺たちをもう少し信頼しろよ」


 二人に撫でられて幸奈の視線は下へと降りていく。そんな幸奈の頬を一筋の涙が伝った。


「……ごめん。ちょっとだけ、泣かせて」


 蹲る幸奈を、洸矢とプレアは静かに見守っていた。

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