第23話 祭りと事件②
それから凜とラインは二人で屋台を回っていた。
二人きりになって十五分ほど経ったが、幸奈や洸矢から連絡はなかった。
「幸奈と洸矢、友達に会えたかな?」
ラインが音楽に乗ってうきうきとしている一方で、凜は幸奈たちを心配していた。
幸奈も洸矢も、あれほど葛藤している表情を初めて見た。特に、幸奈は咄嗟につく嘘が得意ではない。だから、自分の知らないところでなにかが起きているのだと凜は察していた。
「……そうだね。会えてるといいね」
ラインを不安にさせまいと、凜は笑顔を取り繕いながら応えた。
「あ、いたいた」
フィナーレの花火の時間が近づいてきたため、連絡を取ろうかと凜はスマホを取り出す。そこに、突如現れた少女が凜たちの目の前で立ち止まった。
「こんばんは」
「えっと……運上さん、だっけ?」
「この前ぶりですね」
少女――みのりはニコリと笑う。
「あなた、ラインちゃんで合ってるよね?」
「うん。ラインはラインだよ」
みのりの問いに、ラインはきょとんとした顔でみのりを見上げる。
「幸奈は今一緒にいなくて……連絡取った方がいいかな?」
「いえ、大丈夫です。あたしはラインちゃんに用事があるので」
「ラインに?」
「はい。ラインちゃんの家族が、ラインちゃんを探してるんです」
「……え?」
衝撃的な言葉に凜は目を見開く。ラインに、家族がいる?
「ラインはずっと一人って言っているんだけど……」
「そんなわけないじゃないですか。じゃないと、あたし家族の人に頼まれてないですし」
「その、ラインは記憶がなくて……」
「記憶がない?」
予想していなかった凜の返答に眉を寄せるみのり。
また、みのりの言葉に凜も混乱していた。ラインは一人と言っていて、家族について尋ねたときにも、ラインはいないと答えていた。なのに、みのりはラインに家族がいると言っている。記憶喪失のせいで思い出せていないのかと凜は考え込む。
凜がラインに視線を移すと、ラインも訳が分からないと言った表情を浮かべていた。
返事がない凜とラインを一瞥して、みのりは溜め息をつく。
「……とにかく、ラインちゃんに家族がいるのは間違いないです」
「それじゃあ、ラインの家族に挨拶したいから、僕も行ってもいいかな?」
「大丈夫です。あたし一人で戻れますから」
「そういうわけにもいかないよ。一応ラインを預かっていたし、連絡しなかったことも謝らなきゃいけないからね」
「いや、いいですって」
不安そうに答える凜と、気怠げに返すみのり。
凜はみのりの態度にほんの少し違和感を覚えた。ここで自分を突っぱねる理由が分からない。家族を預かっていた人間から聞きたいことだって山ほどあるはず。それなのに、みのりは一人でラインを連れて行こうとしている。
「積もる話は後からいくらでも聞けますし」
行こっか、とみのりはラインの手を取る。
だが、ラインは勢いよくみのりの手を振り払った。
「……やだ」
じとりとみのりを見上げるライン。
「凜も一緒じゃないとやだ」
ラインを静かに見つめた後、大きな溜め息をつくみのり。
「……無理矢理でもいいって言ってたし、仕方ないか」
みのりはやれやれと言った風に呟き、スマホを取り出した。
次の瞬間、みのりの横に猫の姿をした精霊がやってきた。睨みつけるような精霊の視線を二人は覚えていた。あの世界で出会った精霊もどきと同じだと。
みのりにラインを引き渡してはいけない。凜は直感で感じ取った。
「ライン、行くよ……!」
ラインの手を引いて走り出す凜。ラインも異様な空気を感じ取っていたのか、逆らわず凜についていった。
あっという間に人混みに紛れた二人をみのりは無表情で見送り、凜たちが腰掛けていたベンチに座ってスマホを取り出す。
「もしもし、先輩? ラインちゃんを見つけました」
『そうか。それじゃあ、そのまま運上に任せてもいいか?』
「別の人とどっか行っちゃったんで、先輩も探してくれると助かります」
『分かった。どこに行ったか分かるか?』
「メインステージとは反対方向ですね。あたしの位置情報も送りますねー」
通話を終え、みのりは座ったままスマホを操作する。
「この子に追い込んでもらえばいっか」
足元の精霊もどきを見下ろすと、精霊もどきは毛繕いをして寛いでいた。
「じゃあよろしく」
みのりの呟きに精霊もどきはなにも返さず、凜とラインが消えた方向へ走っていった。
みのりもスマホを操作したまま立ち上がり、二人が去った方へ歩き出した。
* * *
「シーちゃん、いた?」
「……駄目ね、完全に見失ったわ」
幸奈とシルフは人の波から外れて立ち止まる。幸奈たちが来たときからさらに人が増え、会場はごった返していた。
「人も多くなっているし、これ以上探すのは難しそうね」
「……そろそろ凜くんたちのところに戻ろっか」
今日を逃せば、次はいつ見つけられるか分からない。しかし今日の本来の目的は精霊祭を楽しむことで、精霊もどきを探すためではない。凜とラインを長い時間二人きりにさせてしまっていると、幸奈は申し訳ない気持ちを抱きながらスマホを取り出した。
「幸奈?」
幸奈の名前を呼ぶ声に顔を上げると、目の前には瑞穂とセレンがいた。
「ぐ、偶然ですね! こんな大勢の中でお会いできるなんて思っていませんでした……!」
嬉しそうにしているセレンの横で、瑞穂は不思議そうに首を捻る。
「先輩たちはどうしたの? ラインちゃんを連れてチーム活動をするって言っていたじゃない」
「えっと、これはその……」
瑞穂の問いに幸奈はたじたじになる。チーム活動を抜け出して精霊もどきを探していたなんて口が裂けても言えなかった。
「あれ、幸奈とシルフじゃん」
聞き慣れた声に幸奈たちは振り返る。そこには片手にポテトスナック、もう片手にはコーラを持った日向。そして日向の頭の上にはフレイムが乗っていた。
「フレイム様、素敵な場所にいらっしゃいますね……!」
「人が増えたからな。危ないから日向がここにいろと言ってきた」
居心地は悪くないな、と日向の頭をぽふぽふと叩くフレイム。
「屋台……」
日向の両手にある食べ物を見て、閃いたように幸奈は声を上げる。
「そう! 気になる屋台があったから買いに来たの!」
「……幸奈。なにがあったの?」
「え?」
作り笑いを悟られたのか、瑞穂の心配した表情が幸奈に向けられた。
「幸奈が咄嗟の嘘が苦手なのはよく知っているわ」
「う、嘘じゃないよ! ほら、今年は去年より屋台が多いから、色々見たいなって思って!」
あはは、と乾いた笑いをこぼす幸奈。だが、瑞穂の表情は変わらなかった。
「んだよ幸奈。迷子か?」
「それはさっきまでのお前だ」
フレイムが呆れたように呟く。
幸奈が気まずそうにシルフに視線を移すと、シルフは覚悟を決めた表情で頷いた。
「あのさ……」
瑞穂たちに視線を戻し、幸奈は言いにくそうに話を切り出す。
「みんなは、人間界に精霊もどきがいるって言ったら、信じてくれる?」




