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第14話 覚悟と目標

 翌日。幸奈とシルフがゲートを見つけた場所へと向かった一行。

 だがそこにゲートはなく、緑豊かな森が広がっているだけだった。


「この辺りでゲートを見つけたんだよな?」


 洸矢の問いに頷く幸奈。日向は大きく伸びをしながら近くの木にもたれかかった。


「そしたら、またゲートが現れるまでこのへんで待ってればいいな」

「いつ現れるのかは不明だがな」


 日向とは反対に冷静なフレイム。気が抜けた日向はズルズルとその場にしゃがみこんだ。


「ゲートが現れたら、出てきた精霊もどきをどうするかだな」

「確かに、放置してゲートに入るのは難しいだろうね」


 洸矢と凜が話していると、シルフが二人の間に入り込む。


「精霊もどきなら私一人で追い払えるわよ」

「え、でも……」

「私に任せてちょうだい」


 自信満々といった顔でシルフは微笑む。

 シルフは可愛らしい姿をした妖精だが、中身は四大精霊の一人。今の幸奈たちにとって、シルフの姿は誰よりも逞しく見えた。


 チャンスは間もなくして訪れた。


「みんな、見て!」


 幸奈の指差す方を見ると、十メートルほど離れたところの空間が歪んでいた。


「あれがゲート……?」

「まだよ。これからゲートができていくわ」


 幸奈たちは息を呑んで歪みの行く末を見守る。歪みは捻じ曲がって円形へと変わり、直径三メートルほどの円形を形成していく。


「普通だと信じられない光景ね……」


 ゲートへと変わっていく光景を見つめ、呆然と呟く瑞穂。

 歪みは完全に円形を形作り、宇宙空間をそのまま映し出した模様が現れた。


「ゲートだ……」


 洸矢たちは思い出した。何日も前、精霊界に向かうためにと通ったゲートの存在を。

 半信半疑だった洸矢たちは、現れた歪みがゲートだと確信した。

 後はゲートから現れるであろう精霊もどきを追い払ってゲートを通るだけ。いつ精霊もどきが来てもいいようにと、全員が身構える。

 そして、ゲートの向こうから精霊もどきがゆっくりと姿を現した。


「……え?」


 ゲートから現れた精霊もどきは一斉に、立ち尽くす幸奈たちを捉えた。


「どういうこと……?」


 目の前には、鳥や狐やスライムなど――十を超える精霊もどきの姿。


「幸奈、どういうことだよ……」

「分かんない……シーちゃんといたときは一体しか現れなかったよ……」


 動揺が広がる幸奈たちに、じりじりと距離を詰める精霊もどきたち。一斉に向けられる獰猛な視線に、幸奈たちは恐怖に呑まれ始めた。


「全員、ゲートが消える前に走って!」


 シルフが幸奈たちの前に飛び出し、風を起こして精霊もどきたちを薙ぎ払う。草木が風に乗って舞い、精霊もどきたちに降りかかった。

 シルフによって現実に引き戻され、幸奈たちの怯えた瞳は覚悟へと変わる。


「ライン、行くよ!」

「うん……!」


 ラインを抱きかかえて凜はゲートまでの道を走り出す。すぐ辿り着ける場所にあるはずなのに、なぜか何十メートルも先にあるように感じられた。ラインの服を掴む強さが不安さを物語っていて、凜は一層ラインを強く抱きしめ、走る速度を速める。


「凜、後ろ!」


 ゲートまで後一歩というところでラインが叫ぶ。一体の精霊もどきが凜たちを狙うように飛びかかってきていた。守る術がない凜はラインを庇うように背を向ける。


「凜先輩、ラインちゃん!」


 瑞穂の声と共に水流が現れ、襲いかかろうとした精霊もどきを森の奥に押し飛ばした。


「二人とも、怪我はありませんか?」

「大丈夫、ありがとう」


 水流の勢いに多少戸惑いながらも、凜は立ち上がってラインを抱え直す。


「セレン、行くわよ」

「は、はい……!」


 セレンが手を動かすと水のベールは近くにいた精霊もどきを包み込み、身動きが取れなくなっていた。その隙に合流し、瑞穂たちはゲートを通り抜けた。


「っしゃオラァ!」


 一方、日向とフレイムは精霊もどきと対峙していた。日向の手のひらから放たれた火球は精霊もどきの一体に当たり、近くの木に叩きつけられた。


「お前はいつも通りだな」

「この世界の最後の思い出作りってことで」


 生き生きとした笑顔を浮かべて日向はゲートに走り、フレイムも日向に続く。

 最後に、幸奈と洸矢とプレアがゲートの前に到着した。


「シーちゃん、これであたしたちが最後だよ――」


 幸奈が振り返ると、そこには精霊もどきに囲まれているシルフの姿。洸矢とプレアは目を見開き、思わずシルフに駆け寄ろうとする。


「あたしがなんとかするから、洸矢兄とプレアは先に行ってて!」


 駆け寄ろうとした二人だが、幸奈に引き止められた。幸奈に背中を強く押され、洸矢とプレアは押し込められる形でゲートを通り抜けた。

 変わらず精霊もどきに囲まれているシルフを捉え、幸奈は地面を強く踏み込む。


 その瞬間、


「――え」


 後ろにあったゲートがゆらりと揺れた。

 円形を保てずに揺れ動く様子は、ゲートが閉じ始めた合図だった。

 幸奈が踏み出そうとした一歩はズザ、という音とともに止まり、砂埃が舞う。

 立ち止まった幸奈の頭の中にいくつもの考えが駆け巡った。目の前には精霊もどきに囲まれた親友の姿と、背後には閉じ始めたゲート。ここでシルフの元に行けば、戻る間に確実にゲートは閉まってしまう。しかし、一人だけゲートを通るわけにもいかない。

 それなら、なにがベストなのか。


「……っ、シーちゃん!」


 今の自分にできることはこれしかない。

 全力で親友の名を叫び、真っ直ぐ手を伸ばした。


「シーちゃん!」


 シルフが振り返ると、そこには自分に向けて手を伸ばしている親友の姿。

 なぜまだゲートを通っていないのか。叫ぼうとしたが、その疑問はすぐに掻き消えた。

 どうせ、一緒に行こうと思って待っているのだろう。いつも学校に向かうときや学校から帰るとき、準備が終わるのを待っている自分と同じように。そんな日常とは全くかけ離れている状況なのに、なぜか同じように見えてしまった。

 帰らなきゃ。くだらないことでバカみたいに笑っているあの日常に。


「少し待ってなさい!」


 幸奈に向けたシルフの顔は笑っていた。

 シルフが巻き起こしたつむじ風は、精霊もどきたちを勢いよく森の奥へと吹き飛ばした。

 そして幸奈に向かってできた道を、全速力で飛んで手を伸ばす。


「幸奈!」


 二人はしっかりと手を握り、そのままゲートに雪崩れ込む。

 幸奈たちが越えた瞬間にゲートは歪み、その場から消えてなくなった。


   * * *


 幸奈たちがゲートを越えると、そこは先ほどいた場所と全く異なっていた。地面は灰色に固められたコンクリートと、周囲は立ち並ぶ建築物の壁面。

 影に覆われた狭い通路に立つ幸奈たちに、時折薄い光が射し込んでいた。

 見上げると、見覚えのある青い空。遠くからは街頭広告の音声と喧騒。

 それらの光景に幸奈たちは見覚えがあった。


「ここって……」

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