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第11話 チームと力

 翌日。一行は幸奈とシルフが見つけたという湖に移動した。

 湖の周囲には苔むした巨大な岩が点在し、生い茂る木々に囲まれていた。穏やかな静けさも合わさり、新たな拠点として十分な環境だった。


「精霊もどきはいなさそうだし、こっちなら別の手がかりも見つかりそうだな」


 日向と瑞穂、フレイムとセレンが近くを探索することになり、幸奈たちは湖のほとりで休憩していた。

 湖のふちに座り、足を伸ばしてぱしゃぱしゃと水を蹴る幸奈。幸奈の隣で、ラインも幸奈の真似をして小さな水飛沫を上げていた。


「幸奈。みんなはどうやって友達になったの?」

「えーっとね、洸矢兄は幼馴染だから小さい頃から仲が良くて、日向は同じクラスで、瑞穂ちゃんと凜くんはあたしが作ったチームに入って友達になったんだよ」

「チーム?」

「あたしたちの通ってる高校はチームを作って色んなことができるの。それで、あたしたちは精霊界に行くことにしたんだ。着いたのは精霊界じゃなかったけどね」


 あはは、と幸奈は乾いた笑いをこぼす。


「そうなんだ……」


 ラインはゆっくりと水を蹴りながら幸奈の話を聞いていた。


「あのね、ラインも……」

「ん?」

「ラインも、幸奈たちのチームに入りたい」


 思いがけない提案に幸奈は驚く。ラインの丸く大きな瞳が幸奈を見つめていた。


「駄目?」

「うーん、入って欲しいんだけど、ラインちゃんは四葉生じゃないし……」


 腕を組んで考え込んでいた幸奈は、突然「そうだ!」と叫んで水面を強く蹴る。勢いで顔に水飛沫が飛んだが、濡れたことなど気にせず、ラインに満面の笑みを向けた。


「学校の外で、ラインちゃんも入った特別なチームを作るの! そしたらラインちゃんも一緒のチームだよ!」


 幸奈は元気よく立ち上がり、拳を空に突き上げる。


「よぉし、新しいチーム結成!」


 ラインも幸奈に続いて立ち上がり、幸奈と同じように空に向けて小さな拳を突き上げた。


「幸奈。そのままにしていると風邪引くよ」


 二人のやり取りを眺めていた凜が幸奈にタオルを手渡す。


「ありがとう、凜くん!」


 タオルに勢いよく顔を埋める幸奈。気持ち良さそうにしている幸奈を、ラインは羨ましそうに見上げていた。


「凜、幸奈のお兄ちゃんみたい」

「そうだね。僕にとって幸奈は妹みたいな存在だよ」

「ラインも凜の妹がいい!」

「それじゃあ、今日からラインも僕の妹だね」


 ラインのパァッと表情が明るくなり、嬉しそうに凜に飛びついた。


「凜先輩」


 一連の光景を見守っていたらしい洸矢が呆れながら凜に声をかける。


「幸奈を甘やかすのもほどほどにしてください。あとラインのこともです」

「洸矢は本当に過保護だね」


 洸矢の呆れる顔を見て、凜はほくそ笑む。

 意味ありげな笑顔から、言いたいことを察した洸矢は苦い顔をする。


「……一応確認するんですけど」

「なに?」

「凜先輩は、その、なんとも思ってないんですよね……?」

「なにを?」

「あー、えっとですね……」


 凜のどこかわざとらしい返答に言葉を詰まらせる洸矢。

 洸矢の視線は、いつの間にかラインと遊び始めていた幸奈に向く。洸矢の視線を見逃さなかった凜はにこやかに微笑んだ。


「僕は変わらず幸奈と仲良くするだけだよ」


 それはどちらを意味する言葉なのか。曖昧な返答に洸矢は頭を抱える。


「心配しなくても大丈夫だよ」

「俺が心配するんですよ……」


 気まずそうに顔を逸らした洸矢は、湖の先の森になにかを見つける。

 そこには人魂のような生き物がふわふわと浮いていた。青く燃える炎のような姿をしていて、体から生える腕も青く燃え盛っていた。場にそぐわない異様な姿から、洸矢はその生き物が精霊もどきだとすぐに気がついた。


「せっかく移動したのに、ここにもいるのかよ」


 険しい表情で呟く洸矢。


「先輩たちはここにいて――」

「あたしに任せて!」


 洸矢の横を駆け抜けたのは幸奈だった。

 幸奈は近くの大きな岩に登り、洸矢たちを満面の笑みで見下ろす。木々の間から射し込む太陽の光に負けないほど明るい笑顔で。


「シーちゃん、いける?」

「全くもう。いつでも大丈夫よ」


 呆れ混じりにシルフは答え、幸奈と目を合わせて頷く。


「危ないから、洸矢兄たちはそこにいてね!」


 洸矢たちに呼びかけ、幸奈は精霊もどきに近づく。初めて遭遇したときのことなど遠い昔のように、軽い足取りをしていた。

 幸奈に気がついた精霊もどきは身体から炎を放つ。蝋燭の火の形をして飛んでくる炎を、幸奈は岩の上でくるりと回って避けた。幸奈の軽い身のこなしは、まるでステップを踏んで踊っているかのように見えた。


「幸奈、洸矢たちから離れるわよ」

「オッケー!」


 シルフの呼びかけに応えた幸奈は精霊もどきの前に立ち塞がり、注意を引く。そのまま森の奥へと駆け出し、精霊もどきも幸奈を追いかける。


「私がいるわよ!」


 精霊もどきの後ろで、シルフが湖面の水を巻き込んで突風を起こす。風は周囲の木々を薙ぎ倒し、幸奈を追いかける精霊もどきを巻き込んだ。精霊もどきは風に振り回されながらも、必死に先を行く幸奈を追いかける。

 幸奈たちがいなくなった後も、しばらくの間湖面は揺れ続けた。小さな体から放たれたとは思えない力に圧倒され、洸矢たちは幸奈たちを呆然と見送っていた。


「ただいまー!」


 それから五分と経たないうちに、幸奈とシルフは洸矢たちの元に戻ってきた。息切れする様子もなく、元気さは五分前となにも変わらないように見えた。


「幸奈とシルフ、すごいね!」

「もっちろん! あたしとシーちゃんにかかれば楽勝だよ!」


 目を輝かせるラインと、腰に手を当てて自慢げに胸を張る幸奈。


「元気なのはいいけど無理すんなよ」

「大丈夫だよ、洸矢兄。シーちゃんといれば無敵だから!」


 いつもと変わらない眩しい笑顔に、洸矢は「そっか」と安堵する。

 幸奈の頭に手を置いた洸矢が密かに癒しの力を使っていたのは、近くにいたプレアだけが気がついていた。


「シルフの力は少なからず負担になるはずなのに、幸奈はよく使えてるね」

「そう思ってくれているならなによりだわ」


 感心している凜にシルフは眉を下げて応えた。


「思い返せば、幸奈は学校でもシルフの力でいつも遊んでいたね」

「そうね。私はあの子についていくのも一苦労よ」


 やれやれと肩を竦めるシルフに、凜は小さく笑った。

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