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番外編①「埼東ゆき」



 それは、色々なことが始まってしまう前の、こと日差しがぽやぽやしたいち日。

 来たるなり日向ぼっこ、と言って私を縁側までぐいぐい引っ張った我が悪の魔法少女、埼東ゆきちゃんはどうしてか今私のお膝の上です。


「よしよしです」

「うみゅぅ……」


 彼女が心地よくなるよう先からずっと撫でていますが、しかしどうも私の全身はそんなに脂肪というものを蓄えてくれないのがよくありませんね。

 お膝もちょっとゆきちゃんのお人形さんみたいに比率の小さめヘッドすら乗っけておくには少し不安定に筋張っている気がします。

 しかしこの中身もきっと出来の良い頭は、ツインテールを流しながら私の貧相お膝の上でも何とか安堵してくれてますね。


「ふぇー……」


 というか、むしろとても気持ちよさそうです。指先を通りの良い髪に流すだけでゆきちゃんは目を細めますし、ためしに額を撫でてみればにへりとすらしてくれました。

 なるほどこれは私のお家に来てまで彼女のしたかった日向ぼっこは楽しめているのでしょう。


 反して、私の貧相なだけでない貧弱お膝は少女ヘッドの重み一つで、とっくに痛みを超えて痺れを過ぎてもう膝下以降が最早無感覚なのが後で怖いですが、そんなのコラテラル・ダメージというものに違いありません。

 必要悪な私ボディなんてさっさとどうでもいいなと切り捨て、私は指の平でゆきちゃんの額にかかった御髪を優しく整えつつ、眼下の無防備な少女に対する感想を吐露するのでした。


「うむむ……どうしてゆきちゃんはそんなに愛らしいのですか?」

「あはは。なにー? 吉見お姉さん、わたしに変わった告白でもしてるの?」

「いえ。そうではなくてですね……正直に私は表情豊かなゆきちゃんの可愛らしさが羨ましいな、と思っちゃうのです」


 時にオーロラ色を映すゆきちゃんの髪の綺麗な天使の輪っかを指で攫いながら、そっと述べた筈の私の言葉は嫌に大きく響いてしまいます。

 正直なところ、今の私は大分油断していたのかもしれません。普段なら、無能故に他所様すげえと常々思っていてもそれをいちいち口に出すことはないですから。


 でも実際、私が無能であるということを抜きにしたって、ゆきちゃんの愛らしさは抜群です。

 魔法少女として活躍する彼女の報道があったしばらく前からここ楠川市にイエスゆきちゃんノータッチと口々に呟く謎のおにーさん達が出没するようになったのは、それと無関係ではないでしょう。

 私はふつーにこうしてタッチしちゃってますが、彼ら的にどうなのでしょうか。よく分からないですが、私はでも好きには触れたくなるタイプなので、どうしたってこうして優しく撫で撫でしてしまうのです。


 とはいえ私は絶対にこうはなれない純粋無垢の稚気の前にて、しかし無表情を続けているに違いありません。

 魂の半分が前の命と繋がっちゃっていると思われる私は不随意筋への接続が物足りないのか、笑顔は努めなければ中々出来ないのですよね。

 ぶっちゃけ私が上からじっと無で見つめてくるのはゆきちゃん怖くないのかな、とすら思うのですがしかし笑窪可愛い表情のままゆきちゃんは言います。


「えー。吉見お姉さん、わたし見てそう思ってたの? 嬉しいけど、羨ましがるのは違うよー」

「ふむ。それはどうしてでしょう?」

「それはねー……えいっ」

「わ」


 威勢良くもゆきちゃんが起き上がると、なんと私に正面から抱きついてきました。

 いや、骨感強めな私の残念胸元でよくそんなにこやかに出来るなあと私は少しぼんやり。

 でも、身体は勝手に動いてハグにハグを返すのでした。いや、子供だからかゆきちゃんはあったかく、まるで陽光そのもののようにすら思えます。

 しかし、太陽はずっとそこにあるわけでもなければ、子供は泣いたり笑ったりです。そしてゆきちゃんだって人の子。もし彼女が表情豊かになれたなら、それは。


「わたしがにこにこしてて可愛く見えるならそれは、吉見お姉さんといて幸せだからっ!」


 確かに、私が無関係とは言えないのだな、と幸せに感じてくれて嬉しいなときゅんとしながら思うのでした。


 無感動でお人形さんのような、子。そういえばそれがゆきちゃんとの初対面での印象でした。

 そんな子がこうして笑顔を見せてくれるようになったのは、そういえば何時頃からでしたかね。

 一時は必死になって、どうしてか鬼さんと敵対していた時期もありました。確か、それ以降から笑顔が増えてきたような気がします。


【お姉さんに、すべてをあげる】


 つまり、それはあの日の契約後。命に関わる首輪を私なんかに覚悟とともに差し出してくれた時からだとしたら、それは何よりも罪深いことで。


 でも。


「それは……嬉しいですね」


 間違いなく、私はそうも思うのでした。

 私なんかのもとで、苦しくなかったどころか楽しんでくれている。

 そんなの嬉しくって堪らなくて、心は躍っちゃいます。ただ、それでも私はやはりクールビューティー。どうしたって勝手に笑えはしないのですが。


「でしょー……あ、吉見お姉さん、笑ってるっ!」

「え? そうでしたか……」


 しかし、ゆきちゃんからそんな指摘。

 きっとそれは酷く薄いものだったかもしれませんが、しかしゆきちゃんのために私は笑顔を浮かべられたようです。

 私の上での中で見上げながらきゃっきゃしている彼女の瞳の中の私は曖昧ですが、しかしそれでも間違いなくここにある。


「あ、また無表情に戻っちゃった……でも、吉見お姉さんもすっごく可愛かったよー」

「そうですか……」


 ゆきちゃんは結構勝手な子ですが、さっきからずっと嬉しいことを言ってくれますね。

 いや、現在進行的に遠慮なくズックに包んだあんよで私の脆弱な膝を先から知らずふみふみしてくれていますので、感覚ないですがこれは後で多少のアザでも出来てはいるかもしれません。

 とはいえ、そんな無遠慮なところすら可愛さのもとであれば、きっと他の方から見れば不格好だったろう私の笑みを可愛いと言ってくれるこの少女に返せるものなど一つしかなく。


 故に、今度こそ確りと笑顔を作り上げた私は愛を持ってこう告げるのでした。


「なら、お揃いですね」

「そう、一緒っ!」


 凸凹。違うものが、しかし隣り合えば一緒にはなれます。

 大喜びなこの子の笑顔のもとに私がなれているなら、それはとても素晴らしくて、だったら私なんてやっぱり悪でいいとすら思えます。


 そう。本来日向に出るべき者でない、気後れゆえに出不精な私をこうして気にしてくれる少女のために私は。


「ふふ」

「あははー」


 笑顔になりながら、既に巡り始めた血流の影響かしびしびし出している足のちょっと後の痺れの苦痛を、やはり仕様のない事と割り切るのでした。





 この世界にて往々にして魔法というものは、悪です。

 正常に行使されない理屈は歪みを生むものして、その結果が数多の犠牲であるならば迫害もやむなしとされていました。

 しかし、魔女の血を彼らが浴びたところで別に救いにもならいのですから、法則だった力の悪用というものは時に哀しい。


 まあ、そんな認識も古い旧い昔のお話です。

 この世には、明らかに犠牲を強いない魔法を用いる少女が実は結構前に、既に居ました。


 それが、埼東ハルさん。正義の魔法少女として、私と会う前の上水善人と敵対していた彼女。

 彼女は光を持って力を成して多くを浄化させました。

 全ての人を幸せにしたいという彼女の夢幻のような願いはだからこそ、魔法という名を借りただけの奇跡としてあまりに強い。

 故にその快進撃はずっと続いて、多くの悪を正した。挙げ句、なんと善人の喉元にまでたどり着いたというのだから、驚きです。


「ん? ――――それだけか?」

「そんな……」


 でも、そもそも性によるものではなく生まれにより《《正しく悪》》である善人をどうにかすることなんて、出来ようもありませんでした。

 故に、殺されます。それは当時の飢えていた善人からしたらどうしたって避けようもないことで。


「まずはそうだな。子供の責任を取るのは親、か。ならお前の親を片方ほど、消しておくか」

「そんなっ! 止めてっ! 殺すなら私だけでっ……! 何でもするからっ!」


 足元に縋り付こうとすらした少女を前に、善人は酷くつまらなそうに。


「オレにはお前らの何もかも、どうでもいい。だから、もう消した」

「お前っ……」


 権能を奮うまでもなくただ部下へタクトを振るだけで彼女の母を殺傷せしめていて。

 それを理解し怒りとともに奇跡ごと歪んだ魔法少女を前にしても、彼は喜悦一つ面に浮かべないまま。


「……」

「そしてお前も消えて、この件は終いだ」


 最上位の力を真正面から浴びたことによって埼東ハルさんはこの世に塵とも残ることすらなく消え去ったのです。


 そんな、私にはどうしようも出来なかった残酷なことが、確かに物語にはありました。




「善人くん! 一緒にサッカーしよーよっ!」

「やらん」

「えー、けちっ!」


 ただ、そんなお姉さんとお母さんを殺害した相手をゆきちゃんはただいま同僚としていて、その前で今日も笑顔で遊びます。

 まあ本日はドケチにもやる気がなかったようで善人がサッカーボールを押し返しましたが、私としては偶には魔法少女相手でも格好つけて無駄に高い身体能力のみを駆使して挑み、最後油断のために毎度敗北する彼の姿を久しぶりに見たいと思ったのですが。


 しかし、どうも彼も今は悪よりの気持ちだったようで、ツンケンな態度。最近ボールが友達なお気持ちであるらしきゆきちゃんは窓をガシャンと割って出ていきます。

 破壊といういつもの事にため息飲み込み眉を潜め、その権威を用いて窓ガラス自体に戻るように指揮しながら善人は、今更にも程があることをこう呟きます。


「……そういえば、どうしてコイツはオレ等の仲間になったんだ? ルーツからしてゆきは善だろ」

「あー。それは私のせいですね」


 改めて、ゆきちゃんは私を縛り付けていた鬼が摂理の側だからそれに悖る悪になろうとしているだけです。

 だから、普通に普段は悪いことしないですし、むしろ人助けをよくして善人に溜息をつかせてばかりなのですね。


 まあ、善人が見たことない親類を奪った相手と知って最初は迷っている様子でしたが、とうにテュポエウス入りに関しては吹っ切っています。

 むしろ、あの時陰り一つなく人を殺めた方が今更気にしているという有り様。情けないなあと思う私に善人も微妙な表情をしました。


「また吉見、お前のせいか……それにしても、仇の筈のオレを気にしてなさすぎじゃないか?」

「それは、やはり彼女が根からの善だからでしょう」

「……どういうことだ?」

「おや。分かりませんか」


 私は明白に伝えられたと思ったのですが、しかし無駄に格好つけたポーズで善人は思案しています。

 これが本来なら他人の考えなんてどうでもよいとしていた人です。どう考えても変わったなあ、というのが私の感想。

 そして、故に変わってしまったからこそ理解が出来ないのでしょう。同じままだと勘違いしている今は《《間違った悪》》である善人に私はこう伝えるのでした。


「ゆきちゃんは、どうしようもなかった貴方を、それでも変わってくれた貴方を故に見捨てられないだけなのです」

「そう……か」


 上水善人は、ラスボスに相応しい無慈悲。しかし、そうあるべきでないと私は思いましたし、そうなってくれたのを見て知ったあの子は、故に勿体ないと見捨てられません。


 人を苦しめて生きてきて、でもだからこそ変わって辛くても生きてもらわないと。善人についてそんなことを口にしたゆきちゃんの表情を、私は見れませんでした。


 そして彼は未だに曲がりなりにも悪であり、どうしようもない存在であり続けてはいますが。


「ゆき」

「呼んだー?」

「……いちいち窓を壊してから入ってくるな。サッカーだったな? 気が変わった。やってやろう」

「えー? 善人くん、いつものナシナシルールだよ?」

「ああ。オレは能力なし権能なしで行く。偶にはそれで勝ってやろう」

「ふふー。楽しみっ!」


 凸凹。違うものが、しかし隣り合えば一緒にはなれます。

 それが善でも悪でも、変わらないと信じたいのは私のエゴですが。


「ふふ」


 ああ、また勝手に口角は上がってしまいます。それがきっと前にゆきちゃんの愛らしさについての微笑みよりもずっと間違いないものであるのは申し訳ないですが。


「そう。たとえどんなに変わり果ててしまっても、私はあなた達が大好きですからね」


 あり得ない関わりが、輝いて見える。それは本来のもっと酷い無慈悲を識っていたから。


 故にこんな凄まじい原作ブレイクも、どう仕様のない事と割り切るのでした。


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