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第二十六話 我々の戦いはこれからだ

 さて。私と玲奈さんコンビがわらび曰くいちゃいちゃと絆を深めあった翌日。

 【ぷにーず】が発生してからそろそろ四日目となり、だいたいイベントも折り返しになる辺りですね。

 この火曜日に私はなんと呼び出しを受けたのです。


 成績優秀な私は勿論学校から運動以外の成績で文句を付けられることはありませんし、楠川学園を牛耳る鬼どもの呼び出しなんてそもそもべーして従わないのが私でした。

 なら、どうしてこうしてノコノコと、それこそ伴にするよう伝えられた玲奈さんとこの場に訪れたかは、簡単です。


 そう一度、食べてみたいものがあったからですね。原作で美味しそうに描写されていたそれ。

 琥珀色のご飯の上でとろりと淡い色した卵に塗れたサクサクのカツ。湯気越しにそれを覗いた私はもうたまらず飛びついてから口内ではふはふ転がし、こう叫ぶように言うのでした。


「カツ丼美味しいです!」

「えっと……小説で警察が取り調べで出してるの読んだけど、こういうところでも……出るんだね?」

「まあ、普通なら出さねえんだがなぁ……食事の要望さえありゃ趣味で作んのが居んだよ」

「古崎友美さんですよね! 後で美味しかったですとお伝え下さい!」

「……あのカメレオンも、普通にバレてんのな。伊達に全知ってわけじゃねえな」

「はい!」


 大雑把な性格に似合わぬ事務畑を中心に、イザナミで活躍している矢田東輝(やだとうき)さんへ頷きながら、私はしかし友美さんお手製のカツ丼に夢中になります。

 いや、「錆色の~」シリーズがアニメ化した際になんかめちゃ美味そうだったの、凄く心に残っていました。

 それこそ、作画が息切れ気味だった二期にはSNSで円盤では全部カツ丼作画で描き直せとまで言われていた程です。

 まあこれ手作り非売品で、イザナミで取り調べを受けなければ食べられない代物ですので正直に私が食むことの出来る機会がくるとは思っていませんでした。


「もぐもぐ……」

「……私も食べよ」

「はぁ」


 しかし、いざその照りと動きも見事なそれを口に入れてみれば味も大変な丸さと言うか甘さと塩気の整いが抜群であることに気づきます。

 私が食べたいと口にしてから時間的にはそう経っていない中、これ程のかえし、或いは加えて出汁まで用意できているなんて本来ありえないでしょう。

 その筈なのですが、実際口に入れた玲奈さんも眉を上げてがっつき出すくらいにはしっかりと、カラリと揚がったカツの邪魔をしないレベルで半熟卵と混ざっている。

 それら具材を存分に味わった後に残った全ての旨味を吸ったご飯をもそもそいただくのはまた至高といったところ。

 ぶっちゃけ普段は味わうのって苦手なのですが本気になったらこうも理解できるのですね。つい、私は再びこう叫ばざるを得ませんでした。


「ごちそうさまです! 友美さんはメシウマですね!」

「そっかい……テメエは随分なメシマズみたいだがな……」

「なんでかイザナミにまで私のメシマズバレてます! 宗二君が話しちゃったのでしょうか?」

「いんや。アイツがなんでか毎年2月の中頃に黒い炭を大量にイザナミに持って来て時々口に含みだすもんだから、虐められてんのかって聞いたら、テメエの作ったバレンタインチョコがその炭の正体だってんだから察するわなあ……」

「わわ……宗二君が甘いの得意じゃないという知識からなら苦いのがいいと思い込んでカリカリになるまでフランベしていたチョコ群のことでしょうか……後でわらびにも窘められた、文字通りの黒歴史ですー!」

「彼には文字通りバレンタインデーの苦い思い出になっただろうね……ごちそうさま」


 東輝さんに揶揄され騒ぐ私を他所に、玲奈さんは落ち着き払いながら箸を置きます。

 彼女は苦い思い出といいましたがいや、実際本物のによるテロと呼ばれることもあった私の手料理も上位鬼には評判だったりするのですがね。

 あいつらは時にお茶目に鯉の洗いと言って出した、本当にじゃぶじゃぶお塩で洗ってあげただけの鯉さんをすらなるほどこれは面白いとまるごとぱくりといただいてしまうから困ります。


「それで……私達をここに呼んだのはどうして?」

「嬢ちゃんは冷静だな……まあ、単純だ。あのぷにっとした変なのをやっつけてる魔法少女みてえな奴らがお前らだってタレコミがあってな。その確認だ」

「ふむ。なるほど別に私達も十分に隠せているとは思っていませんでしたから、友美さん辺りにはバレバレでしたでしょうし……そうですね。私達がその【ぷにーず】と戦う魔導外装少女です」

「魔導外装? 埼東ゆきみたいな魔法少女とはまた別口ってこっか? で、ぷにーずってまた……まあ、とりあえずはお前らが戦ってんのが間違いないってことか……」

「ええ。なんでか私達を目の敵にしているので仕方なく、ですが」

「そっかよ……」


 寄った眉根。

 ここまで東輝さんが話を聞きながら並行して行っていたタイピングの音が止まりました。

 文武両道。イザナミでも主力級というか秘密兵器的な彼は、ちょっとぶっきらぼうな言の葉と違い実直なところがあります。

 それこそそれらしい、正義の味方。彼は端末を閉じてから、我々に頭を下げてこう告げました。


「すまなかった。こいつらぷにーずとやらも本来おいら達イザナミが処理すべき相手だった筈だ。後手に回って申し訳ない」

「えっと……」


 眼の前の厳つめな男性に突然謝罪されて、玲奈さんは困ります。

 正直に取調室なんてところに入室させられていたことから私も向こうが謝意を持っていたと知らずびっくりでした。

 でも、まあ東輝さんがそういう人ということは知っています。初対面ですが、それくらいは前提知識の内なのでした。


「あ……」


 イザナミがこんな人ばかりだったら信じられたのにな、と思いながら私は隣の玲奈さんの手のひらを安心してもらえるようきゅっと握って大丈夫としてから、真面目で中々良い目を見ない彼にこう返します。


「なあに、大丈夫ですよ! そもそも怪人の襲撃慣れしている楠川市民にとってぷにーず達はちょっとした獣害程度。それに、あいつらはこれまで我々が漏らさずやっつけられてます!」

「だがなぁ……きりがないだろ? どうにもテメエら狙われてるみたいだしよお。宗二……では足んねえから大地とセットで身辺警護を予定してんだが……」

「それは……必要ないかも」

「んでだ?」

「えっと……ん」


 上手く続けて話せない玲奈さんのお手々を私はまたきゅっとします。間違ってないですよと、伝えるために。

 自力でなんとかなるから自分で頑張ろうとする。それは危うさをすらはらんだ考え方ではありますが、しかしぶっちゃけぷにーずはざこざこです。

 いや、普段の私ならダース単位でたいあたりでいちころの憂き目に合いそうですが、四天王の手が入った魔導外装付きでその上二人がかりなら楽勝極まりありません。


 とはいえ、どうやらぷにーずの全容を知らないイザナミはキリがない闘争になるのではと危惧しているようです。

 ですが、こういう時こそ原作知識。私の全知が火を吹く番ですね。私は胸をど真っすぐ張りながら自慢するように語ります。


「ふふー。それは私の全知によって、ぷにーずは後三日以内で壊滅することが分かっているからですね!」

「あー……具体的には?」

「数を減らしたぷにーず達は次第に凶暴化するのですが、追い詰められた彼らは集い大きなぷにーずとなり決戦を挑んでくるのです。そしてそれに我々は勝って……事態は収拾します」

「テメエらが勝つのはいいが……聴き逃せないところがあったな、でかいってどれくらいでかくなるんだ? そのぷにーずってやらは」

「えっと……多分一戸建てのお家よりはおっきくなるかと」

「……んなのにテメエら勝ち筋あんのかよっての聞きたくなっちまったが、それよりんなの街中で暴れさせる訳にゃいかんな……被害がヤバい」

「ふむ……そういえばそうでしたね」


 基本的に人的被害ほぼなしで終わるというのがギャグ外伝でのお約束。とはいえ、スチルで見たあんなでかいぷにーず(王)が暴れたら周辺の建物などは被害を受けるの必至でしょう。

 ならば、どこか広場に奴らをおびき寄せればいいのかと遅まきながら考えて、ヒントありがとうございますとでも私が言おうと思ったら。


「おい。別段大人を信じなくてもいいが、お前ら自分たちが子供だって忘れちゃねーか?」

「それは……」

「はっ。面倒なら、ぶん投げてもおいら達は受け取ってやるっての」


 機先を制するかのように、おじさん未満の大人がそう語りかけてきます。

 いや、東輝さんはいい人ですね。それは知っていました。だが、知っているだけで実感は今遅れてやってきています。

 紛れもない本物は、知るまでもなく信を集められる。なるほど、この人が時期トップと言われるだけはあるのでしょう。


「イザナミは正義だって言い張ってんのはおいら達だ。それで何もなしじゃ何のための正義だってなっちまうだろうが」

「それは……組織のメンツですか?」

「いーや。親切心って奴からだ……おいら達にも一枚噛ませろ」


 にやりと子供みたいに笑った彼を前に、我々の拒否権はなさそうです。

 そもそもイザナミの本拠地たるこの周辺は空き地が多いと言うかグラウンドも広いのがありますものね。確かにここで決戦をさせてくれるなら楽です。


「やれ……」


 それにしても、私が悪の組織の一員だという噂をきっとちらりとも本気にしていないのでしょうね、このいい人は。

 ちょっと、申し訳なくなり合わさっていた瞳を下ろしてしまう私なのでした。




 いい加減悪だの正義だのふらふら関わっていてヘンテコ生物退治にまで勤しむなんて何がなんだかよく分かんなくなってきた私。

 しかし、イベントが発生しているからにはぷにーずを打倒するのは必至なのですね。


「やって来たね……」

「ええ」

「うわ。変な丸っこいのがすげぇ来るな……」


 ということで、やはり玲奈さんの変身を感じて――どうやら奴ら的にはひどい騒音に文句言いに来てる感じみたいです――来たぷにーず。

 色とりどりの彼らは明らかに往年のパズルゲーム等に出てきそうで訴えられたら負けるに違いないと言うかとっとと負けて消え去って欲しいというのが本音です。

 そして、杖とハンマーを構える私と玲奈さん、そして万が一のためだと付いてきていくれている東輝さんに向けてずらりと公道に列をなしてやってくる彼らは大量。

 今日は何やら変なことを口走りながらぴょんぴょんやって来ます。


「ユックリシンデイッテネ!」

「チョットコロシマスヨ……」

「ヤッテヤンヨー!」

「サイ◯マサ◯タマ……」


 なんとも、怒りというか殺る気を感じる文句の数々ですね。

 県というか市名っぽいのを叫ぶ理由はわかりませんがこれには冷静沈着な玲奈さんも萎縮してしまいます。


「なんか今日のぷにーず怖いね……」

「うむむ……しかしどうも偏った場所の旧いログでも参考したのでしょうか、私には恐怖どころか最早レトロさすら覚えます……」

「……いつのネットミームに毒されてんだこいつら」


 制作者側がその世代なのか、或いはこっちの方が面白いと思ったのか。

 理由は定かではありませんがちょっと今どきではない聞いたことあるような脅し文句が我々に次々かかります。

 ですが、我々もそんな時代遅れに負けてはいません。むしろ私達は先端のえっと、じぇーけーっていうのでしたっけ。そんな生き物でした。

 私は改めて杖を振りかぶってぷにーずの群れに挑むのでした。


「我々の戦いはこれからだ、ですー!」

「いや、実際それで合ってんだがそれ言い出したらお終いみてえっていうか……わざとやってるよな?」

「?」


 そしてツッコミ混じりの戦いの口火が切らんとした、その時。




「――――あら。これらは邪魔ですね」



 ぱん。



 一つの音を下に眼前に絨毯の如くに広がっていたぷにーずは尽く弾け飛んで。



「そこの御三方。お姉さんと、お話でもしませんか?」



 彼らの残滓たる色とりどりの汁気をぐちゃとヒールで踏みにじり、《《仮面の女性》》が私達にそう話しかけて来たのでした。



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