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第二十二話 まとめてかかってきなさい

 物語にせよ何にせよ、最初のほうが結構肝心です。

 よい掴みなくして満足に引っ張れなというのは、ことUFOキャッチャー(苦手なわらび曰くあれはでっかい百円募金箱)を見ればよく分かるでしょう。

 もっとも、こう意味不明にするとかわざと最初を下らなくさせるとか、そんな違うテクニックだってきっとあるとは思うのですね。


 とはいえ、「錆色の~」シリーズの場合は私の記憶の限りだと最初は普通の域を出ていなかったのではないでしょうか。

 はじまりに巻ヒロインの過去が少し謎めいた感じで語られて、なんとも気になるところで主人公の周辺に視点が行きます。

 まあ、よくあるタイプの作品といえばその通りですね。前世の私はどうしてだかがっしり心掴まれてハマりましたが、正直な所構成における斬新さには少々欠けていたのかもと思います。


「ふぁ……まあ、そのおかげでヒロインさん達の記憶は印象に残る形でばっちりなのが良かったですね」


 私は、欠伸を一つ。雑に聞こえても構わないモノローグを鬼さん付近の薄暗い寝床に置くのでした。

 そう、私は導入として少女たちの悲劇などを心に残せている。

 あの子らがどうしようもなくて忘れたいそれを私だけが理解しているのは、果たして彼女らの救いになり得るのでしょうか。


「やれ。それが分からない今は、だからこそ幸せなのでしょうか」


 改めて語りますが、私はこの世界を一つの物語として一部見知った生きる者です。ただ、そうでしかない上に、どうにも能が足りなくて誰もかもの近くで上滑りするばかり。

 それが滑稽となり撫でさする手にすら思えるようになり、結果特に悪い子らの慰めにはなれたのかもしれません。


 でも、私には悪因の根治なんて不可能。特にこの世の《《肝心な悲劇》》などは、知っているだけではあんまり変えられなかったのですね。


「無念と言えばそのとおりですが……しかし無意味ではないのが難ですね」


 もっとも、どうしようもある部分、特にわらびに関してはほぼ悲しみの種は除けました。

 もうきっと、あの子が《《鬼化》》することはあり得ないでしょうし、寿命六ヶ月な原作と比べたらこの二次創作世界だと長生き間違いなしです。

 ひょっとしたらお姉ちゃんとしてそれだけで満足すべきなのかもしれませんね。


「でも、それで良しと出来ない私はやっぱり悪い子です」

「むにゃ?」


 そんなに眠れずむしろ早起きしちゃった私はすやすや寝ている様子のわらびを撫で撫でしながらそう呟きます。

 物語には結末があり、それどころか文末にすらピリオドという区切りがあるもの。

 でも、私のもっともっとにはきりがありません。こうしたら良かったのに、ああしていたらもっと助けられたのかも。

 そんな風にして悪の側に付いている今をろくに直視できない私には、きっと救いなんてないのかもしれませんね。


「全く……黙って聞いてれば、つまらないわねっ」

「わ」


 しかし、私の自嘲ごと襖ぱしゃんと一閃。ズカズカ背中に朝日の輝きとともにその人はやって来ます。

 学校でのぴっしりセーラー服とは打って変わった和服を着こなす、なんともツンツンしているその女の人は朝から血圧高く私に指を差しながら怒していました。


「早起きはね……三文の徳に、しなきゃなんないの! 下らない後悔とか、夜にやって寝て忘れなさいっ」

「わわ……由梨センパイ……お声おっきくて皆起きちゃいますよ」

「むしろ起こしてんのよ! ほら朝よ! アタシのテリトリーで惰眠なんて許さないんだからっ」

「おぉお……なんか甲高いのが騒いでる……」

「な、なに? 凄く迷惑……」


 鬼の家にて住み込みで働きながら大体キレまくっている笹崎由梨センパイ。

 彼女のことは当然楠の屋敷によく向かう私も知っていましたしなんだか私を目の敵のようにしてくる人なので馴染み深い方です。

 しかしこの原作でもうるさすぎると評されたセンパイの中々のキンキン声は、正しく朝の静寂に対する冒涜。

 一人大騒ぎなんて器用なことをしながら、無駄にセンパイは人んちで寝ぼけてるアンタ達の方が迷惑なのよと、寝ぼけ眼のわらびと玲奈さんに更にキレ散らかし、こう続けました。


「やっと起きたわね、アンタ達……特に、そこの新入りのアンタ! 鶴見玲奈って言うらしいけど、世話を任された私に挨拶もなしにぐーすかしてんじゃないわよっ」

「あ。ご、ごめんなさい……わたし、笹崎さんって人がお世話してくれるとは聞いてたけれど、夜だし顔を出すのも失礼かなって……」

「ふんっ! どうせこれから世話するアタシ、沢山アンタに迷惑失礼かけられるんだから、遠慮なんてするんじゃないわよっ! でも……」

「でも?」

「気を遣ってくれて……あ、ありがとう……」

「え?」


 なんだか横で見ているこっちですら申し訳なくなってくるくらいに激怒していたと思えば、頬を染めて瞳を逸らして指ツンツン急転直下の展開。

 これには、初心者である玲奈さんが疑問を覚えてしまって当然ですし、あまりの温度差に彼女が風邪を引いてしまうかどうかも心配になります。

 私はあえて言葉に出し、由梨センパイの本質を呟くのでした。


「流れるようなツンとデレ……私でなければとてもじゃないですが見逃してしまいますね……」

「いや、姉ちゃん。由梨パイセン、ツンデレどころか普通に情緒不安定にしか見えないだろ……豹変ぶりが怖すぎるわ」

「わらびは……アタシが怖いの?」

「パイセンも変なとこに食いつくなっての……あれあれ。まんじゅう怖くて好きも嫌いも好きのうちって感じ?」

「もうっ、素直じゃないわねっ!」

「言われてニコニコしてるパイセンの方がちっとも素直じゃ……げふ。照れ隠しとはいえパイセンの馬鹿力で叩かれたら潰れる……」

「わあ……」


 実は設定上鬼にならずともちょっと強めのわらびを背中バンバンで沈めかけている由梨センパイ。

 恐ろしいことに、これでただ無闇に強いだけの人間でしかないのですね。

 バケモノの鬼どもを近くでみて、アレとは行かなくてもこれくらいならアタシにも出来るでしょと勘違いを続けた結果なんだか常識を外れてしまっている女の子。

 流石に、風となるレベルで威力感じるバチンバチンわらびの背中で響かせる由梨センパイに玲奈さんもドン引きですね。

 私は、まあそういえば半ばギャグキャラの彼女が普通に争ったらどれくらい強かったりするのかなあ、と少しワクワクしていました。なんか、痛いわねっ、て口にするだけで大概のダメージなかったことにしそうなのですよね、この人。


「全く……川島姉妹は揃ってバカね! 二人で暇してるんならアタシ達のとこにもっと顔出しなさいってのっ」


 センパイは曰く、歩く剥き出しのツンデレ。全方位に棘と愛を振りまく困ったさんですが、それだけに私を嫌いながらも構おうとしてくるのが難です。

 ちらちらと心配とデレを顔に出しながら見てくる彼女に、しかし私はこう返してしまうのでした。


「それは、やっぱりセンパイにお手数かけさせるのが申し訳ないことと、単純に鬼が嫌いで……」

「何! アンタ達の世話なんて、アタシの手に余る分けないでしょっ! ナメんじゃないわよっ。あと、ここの人たちが嫌いなのはゴメンね……」

「いえ、こちらこそ上手くセンパイの気持ちを汲めずに失礼しました」

「ふ、ふん! 分かればいいのよ、分かれば! でも、これからはそこの玲奈って子が居るからもっとこっちにも来るんでしょ?」

「まあ、そうなりますかね」

「なんたって、ヒロインだもんなー」

「ヒロイン? よく分かんないけど、まとめてかかってきなさい! アタシが面倒全部片付けてあげるからっ!」

「まこと、強者の台詞ですね……」


 センパイはそのない胸を張り(でも私よりちょっとあります)、自信満々にお世話宣言しました。

 汀あたりは最近センパイを見知ったことで理解できていないようですが、幼い頃から面識ある私にとってこの方はツンデレバイブル。

 彼女のこの高い位置で推移し、時にがくっと下がるテンションがたまりません。

 でもそれってジェットコースターの楽しみ方と一緒かもしれないと思いながら、私は彼女にこう尋ねます。


「起こして下さってありがたいのですが。そういえば、センパイ何か他にご用事があったりしました?」

「あ! そうだった! 楠のじーさんばーさんは早起きだからもう起こし済みだけど、アンタ達挟んで海のヤツ起こす予定だったんだわ! アイツ、未だ甘えたであと五分あと五分って何時もうるさいんだからっ」

「ふむ……なら、ヤツの顔面に一発全力ビンタをかましてみるのはいかがでしょう?」

「え? ……それって流石に可哀想じゃない?」

「いえいえ。どうせ、鬼のアイツならノーダメですよ。むしろ、痛みに新たな目覚めなどあるかもしれませんよ?」

「んー……よく分かんないけど、やってみるわ!」

「姉ちゃん……誘導して嫌いなやつに無知なムチを使うとはワルだ……」

「です」


 にまにま笑いを隠しながら、私はわらびの正しい評に頷きます。ぶっちゃけ、私の目算だと鬼として弱々な海に人として強い由梨センパイが引っ叩いたら色んな意味で結構利くと思うのですよね。

 しばらく経ってから邸内にバッチーンという音が響いて玲奈さんをびくっとさせるのですが、まあそれもコラテラル・ダメージ(?)みたいなものでしょう。


 私本当、わらびを《《見捨てようとしていた》》アイツ、嫌いなのですよね。

 何時までも許せない、そんな悪くて弱い私ですが。


「あと……アンタ達、おはようっ」

「はい!」


 騒々しくバタバタと足音を響かせながら私達に向けて手を振る、私と正反対に鬼に救われて彼らを愛している由梨センパイにはきっと優しく微笑むことが出来たとは信じています。




 さて、休日に起きた玲奈さんヒロイン騒動もこれにて終いとなり、彼女は月曜朝の今楠の家にて今安堵されています。

 とはいえ玲奈さんは今頃検査等の話を聞いたり鬼どもの昔話を聞いたりで忙しいかもしれませんが、しかし忙しめなのは私も同じ。


「えっほ、えっほ。学生は登校しなくちゃですものね……」

「徒歩なのになんか全力な運動音痴姉ちゃんは置いておくとして、まあ金だしてもらってるのにサボるのはなー。後、折角無遅刻無欠席なんだし、続けときたいっしょ」

「えっほ。私としても、鬼に財布預けてる現状は望ましくないので、早く自立のため努めたいところですが……おや」


 私とわらびは心持ち急ぎながら楠川学園への道を歩んでいました。はい。学生の務めであるところの最初、登校中ですね。

 もうすぐ夏休みの頃合いということもあって、太陽もギラギラとしています。

 まあ、物質から少し離れ気味の私には熱自体はそんなに辛くはないのですが、しかしだからこそ運動音痴な身体が憎いですね。普通に登下校でへとへとになります。


 今日も暑いなとか、プール4限だーとか、ちくわ大明神とか、セット見てよ変じゃないとか、そんな青春会話が私の隣を通り過ぎ……いや、ちくわ大明神って一体何なのでしょうかね。

 まあ、そんな後ろから抜いていく駆け足気味の雑多を他所に、道の端で突っ立ってこちらを見つめる男の子の姿が。

 私は、相変わらず無造作にしては主張の強すぎる癖毛を掲げる彼の名を呼びます。


「宗二君。おはようございます。どうかしましたか?」

「センパイ。おはよー」

「ああ、吉見にわらび……おはよう。ちょっと、な」


 呑気な挨拶に応じ、宗二君はその甘めイケメンフェイスを私達に向けました。

 しかしどうも、原作ならともかく、今の彼に似合わぬ憂いた様子。 

 気になった私は、お助け二次創作オリキャラとして、主人公さんを導かんと動くのでした。


「何かお悩みですか? 何ならばばーんと、全知の私がまるっとお答えしますよ?」

「そっか。うん、あのさあ……」


 よく考えたら現況が凄まじく変容している中、全知を騙るための原作知識が役に立つとは限らないのですが、しかし私はそんな事実に知らん顔。

 どうせなら、少しでも役に立ちたい無能な私は、微笑みばかりを努めて救世主たるこれから大変だろう彼に言ったのですが。



「何かイライラしてた汀と模擬戦してるなかで気づいたんだけどさ――――オレって、心臓の鼓動のリズムが遅いんだな」


 そこに、返ってきたのは冷静な彼の自認。

 今頃、予定よりこんなに早い時期に己の《《エンジン》》の不調を彼がいつの間にか鬼としていた模擬戦にて感じ取ってしまったのは、私の誤算でした。

 これ、原作どんだけ飛ばしたんでしょうね、と思いながらも私は冷静に、頷かざるを得ません。だって、こんなのだって、私の全知のいち。


「ええ、そうですね」

「はは……やっぱり知ってたのか」

「姉ちゃん……センパイ?」


 勿論私がこのエンジン出力の不足が彼の力の物足りなさの理由の一つとは識っています。そして、黙っていますがそれ以外の真実だって事細かに。

 とはいえ、私が如何に早く伝えようとも彼の弱さが変わることはありません。何せ、それは《《調整不足》》。ピッチを合わせてくれる他人が必要なのは明らかで、それは私には不可能です。


 宗二君の失望の面に、私が無能でなければと何度思ったことか知れない後悔を思い出しました。

 ですが、彼は一度顎をなぞり、そうしてからどうにも意識を変えたようで、何時もの炎を瞳に燃やし直してから彼は私にこう告げます。


「でも、関係ないな。オレは何時か吉見を守れるまで強くなる」

「それは……」


 違う、と私は返したくともでも言葉が出てきません。

 本来ならば、私は彼に倒されなければならない。悪ですし、正義に守られることなどあり得ません。

 でも、そうだったらどれだけいいのか私は思ってしまうので、ついはにかんでしまいます。すると。


「そーじ」

「おや」

「汀……」


 文字通り空から降ってきた声が、私を冷静にさせました。

 それは聞き慣れた無限の重みと繋がる人型という歪の声。刺々しさを響きに変えたような声が届いたと思えば眼前に、デカい背中が。

 それがそれこそ私を敵から護るためのようで、どうにも何か勘違いされているような気がします。会話の最中ですし普通にどいて欲しいので私が声をかけようとすると。


「ふん。汀様の前で生意気語るな、半端者。吉見は汀のもんだ」

「わわ……」


 しかし、こっちはこっちで衝撃的な言葉を発します。

 いや、鬼のものになるとかえんがちょ極まりないと思っていたのですが、しかし意外と強引な好意ってぐっと来るものだと分かってしまい、困惑。

 取り敢えずは事実として、現況を叫ぶ私でした。


「私モテモテです!」

「そーかもだけどさー……この二人の威圧で周囲の人バタバタ倒れてるんの、どうしてくれんの」

「あー……」

「ひょっとしたら初遅刻かなー」


 それが正しい矢印なのかどうかはともかく愛されるのは喜ばしいと思いきや、そうでもないようです。

 睨み合う二人の周囲は死屍累々。ちくわ大明神って叫びながら倒れている子が佐倉知里さんであり、結局それは何なのか気になりますが、それ以上に私には惨状を生み出した責任があります。


「二人共何でもいいですから、私のために喧嘩はやめて下さい!」

「あ、うん……」

「むう……」


 ですのでそう叫んで、原作ブレイクな主人公と鬼の戦闘を一喝で止めたのでした。


「はぁ……」


 これじゃあまるで私、ヒロインみたいですね?

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