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第二十一話 誰が勝てる

 私はこの世界のいちファンではありますが、しかし現状それ以上に役目を得たここに生きるものでもありました。


 悪の組織、テュポエウスの首領。

 全知無能なんて随分な知ったかぶりをして、何も出来なくとも悪い子等の救いくらいにはなりたいなと頑張っている私です。


 駄目な子ほど可愛いなんて聞いたことありますが、私は悪くても多少人間離れしていても大丈夫だよ、ってレベルの広い守備範囲を誇っているのですね。

 とはいえ、勿論彼らの酷さによって他の子が辛い目に遭うのは何時だって心苦しくて泣いちゃいそうですが、それでも我慢するのが私の務めとすら思っています。

 どうせ私には、他に何も出来ないのですから。


「ねむいですー……」


 さて、そんなちょっと変なあり方をしていていても、やはり良い子と眠気には中々勝てません。

 私は水底直送レベルでスイミングが苦手であってもどちらかというと普段の睡眠はグッドな感じなのでした。


 よく寝てよく分からず食べて元気するのは私のルーティン。

 しかし、ヒロインとの遭遇なんて大イベントに時間をかけてしまえば定例会前の睡眠時間を確保することも出来なかったのです。


 楠の離れで妹と玲奈さんの三人でパジャマパーティしてから彼女らに、夜這いは止めてねや、むしろしてよ、等とよく分かんないことを言われた後。

 原作ヒロインらがぐっすりしたのを確認してから私は夜な夜な外出。そして恵が運転する(今日はイケメンさんでした!)お車に乗り込み善人のしょっちゅう変わる新ハウスへ現在進行的に集合中なのですね。


 私はねむねむと目を擦りながら眠気と戦います。

 何せ、今は短針天辺越えた頃。良い子悪い子おねんねしていないと成長にも響いてしまう時刻でしょう。

 私がこんな時間なのに対向を通り過ぎていく赤いライトの尾っぽを窓からぼんやり覗いているとその隣の席にて、同じようにたっぷりの眠気をその幼い顔に出していたゆきちゃんもまた、こう呟くのでした。


「私もすっごくねむいよー……でも、夜に集まろうって言い出したのしゅりょーでしょ?」

「ゆきちゃん、首領呼びは……別に車移動中の今は問題ないですか。そしてそうでしたね。会合時刻は昔の私の阿呆がその方がワルっぽくて格好いいからと決めたのでした。ほら。よく悪い子ってよくコンビニとかの前で夜な夜なお話ししてるでしょう?」


 小学校に通うことを責務としているばかりの可愛い子を撫で撫でしながら、私はこの実際身体にも悪っぽい時間に集まる理由を話します。

 しかし、眠いですね。ブラックなコーヒーをがぶ飲みしてしまえばお目々ぱっちりになるでしょうが、すると今度は眠れなくなるそれは諸刃の剣。

 そして、クッションの柔らかさがたまらなく夢心地に誘います。あ、違いますねこれは空気ふかふかなクッションではなく夢いっぱいの魔法少女でした。

 でもそのまま私がゆきちゃんを間違ってぎゅっとしていたら、呆れ顔で彼女はこう返します。


「わあ……しゅりょーの悪のイメージ何か田舎の不良の中学生レベル……色々人には言えないこと私だってやっているのになー」

「ふぁ……いいえ、畢竟そんなものの延長なのですよ。私達なんて」

「えー?」


 少女の疑問を前に、私は欠伸を一つ。悪に下等上等なんてないでしょうにと、むにゃむにゃしました。

 ただ、少し私の発言は眠気故に端的すぎたためか、今回クエッションマークは一つでは利かなかったようです。

 運転している様子の恵がバックミラー越しにこっちを見たのが分かりました。本当は何にでもなれる、だからこそ不安定である彼は私に問います。


「ん。どういうこと?」

「恵。簡単なことです。私達がしていることは大人にはなれないもの、隠れざるを得ないものたちの馴れ合いに違いありません。悪とはそもそも認められることを期待出来ない存在ですから」

「しゅりょー……」


 私が率直に当たり前のことを告げると、途端になんだか車中のお二人さんが悲しげになってしまいました。

 いや、諸手を上げて称賛される悪なんてあり得ないでしょうし、悪って笑えないことで笑うマイナーさんですのに。

 貴方がたに愛は、遠い。そんなの理解しながら、私はこうしているのですよ。


「ふわぁ……」


 だから改めて私をそんなに悲しげに見つめなくていいのですが。私はだって、そういうものだということ《《最初から知っていました》》よ?


 しばらく、私を揺りかごのようにゆすりながら、沈黙とともに車は走りました。

 そしてあまりの心地よさにうっかり寝入ってしまうその前に、彼は耐えきれなかったように確認を呟くのですね。


「でも……吉見は認めてくれる」

「私は、例外というか……いいえ。違いますね。ただ私は……それでも貴方たちが好きなだけ、なのですよ」


 ああ、眠いです。視界は真っ白白で、ふわふわは幸せですし、こんな本音であなた達が微笑んでくれたのはとても嬉しいのですが。



「ううん……」


 意識没するその瞬間に襲い来るは黒い手の数々。

 ああ、こんなに幸せでも、いいやだからこそ駄目なのです。やっぱり私の意識は眠りに落ちる度に、この罪の黒にバラバラに引き裂かれてしまうのですね。


 もっとも、痛みに引き裂かれて罪が罰となり私を毎日毎日飽きずに殺しても、それも当然。

 私は私が悪を許していることを、本当はこれっぽっちも許せていないのですから。





「おや」

「起きたか……」


 さて。ついついお昼寝ならぬお夜寝、って普通に寝てるのと同じですか。

 まあちょっと、うとうとと寝てしまったにしては所変わって眼前も変化している現在。

 眼前にはアイドルとかやっても結構人気出そうな尖った若作りイケメンおじさんのお顔がいっぱいに広がっていました。

 少し経って私はそれがこの世で最も悔い改めなければいけない存在、我が麾下というか直下。故に撫で撫でしがいのある存在、善人と分かりました。

 別に嫌いな相手ではないのですが私はつい、こんな親しさからの憎まれ口をこぼしてしまいます。


「やれ……善人ですか。貴方のお顔は整っていますが、しかし起き抜けに見るにしては少し優しげがなさ過ぎるお相手ですね」

「……これでもオレは微笑んでいたつもりだったのだが」

「ニヒルな笑みですね! 格好いいかもですが、もっと分かりやすいほうが私は好きです!」

「っ」


 嘘を吐く理由もないので、私は善人のクール系のもっとはっちゃけたらいいのに、な態度に物申しました。

 まあ、途端にえへへ悪いことするの楽しー、と全開になられてしまっても困るのですが、ちょっと格好つけマンなところのある彼は私の言にも眉をひそめるばかり。

 ちっちゃな笑顔もどこへ行ったのやらな不機嫌になってしまいましたが、その分何こいつキスでもしようとしていたの、と私以外なら勘違いしちゃう程の近距離ガンつけは、彼が離れることで終わりました。

 そして、全容が見て取れるようになったまた無駄に豪華な部屋のソファに各々座す四天王が目に入ります。あ、アリスこっそりこっちに手を振ってますね。可愛いです。


 彼らは口々にこう話しました。


「ぷぷー……ダメ出しされちゃってるー」

「ヨシト、フラレ虫さんデス!」

「……これで四天王最強なのだから、吉見には恐れ入る……」

「お前ら……」


 女子連中に指さされ笑われ、恵にすら冷静に評される、善人。

 額にでっかい青筋立っていますが、しかしぷっつんしないのがむしろ不思議です。

 本来なら、このレベルの苛立ちで世界をピンチに陥れかねないのが彼のはずだったのですが。


 原作知識も、現状ほとんど役に立たない状態ではありますが、しかし上水善人を怒らせるような命知らずはこの世に居ない、という原作のキャラ説明は果たして何だったのでしょう。

 普通にこの世界には私含めて四人は居ますね。そして現在いじめているみたいに囲んでいます。

 実際はこの場で誰一人たりとて善人に敵うものも並べるものも居ないのに、おかしなことですね。


 まあ、四天王達の仲良しさんをこのまま眺めているのも悪くはないのですが、しかしよく見れば時間が時間です。

 壁にかかっている短針一つしかない無駄にオシャレな時計参照のため定かではないですが、今はおおよそ丑三つ時ではないでしょうか。

 行き帰りの時間を思うと、アジトでの会合も短めにしたほうが良さそうです。さっさとはじめるためにも、私は大き過ぎないよう気をつけながら声を上げます。


「はい。よく分からないですが、それでは会合開始です。何か議題がなければ直ぐに懺悔へと移りますが……」

「ハイ!」

「なんでしょう、アリス? あ。その手に持ってるのは最近拘っているという食べるラー油ですか?」

「そうデス! ヨシトも悶絶したホドの、ガツンと来る味がミリョクデスよ!」

「オレで食えないんだから、ほぼ誰も食べれないラー油だぞ、あれ……絶対開けるなよ。気化したら多分四天王が二人減る」

「ええー……」

「……マジか」


 私は挙手したアリスの手の中に何故かあった真っ赤な中身を湛えた瓶を目に留めてしまいましたが、なるほどそこに篭っている辛味成分はぼそぼそしている善人の言葉を聞くに中々ヤバそうでした。

 ただ、まあ人が食えないものくらい気にせず食わずして悪のトップなんてやれないところはあります。むしろそれは私にも痛みを覚えさせてくれるものなのか気になりましたが、そういえばと私は続けるのですね。


「へぇー。それほどパンチがあるなら一度私も食べてみたいですね……あ。お話変えちゃいましたね。アリス、何を質問しようとしていました?」

「そうでしタ! ヨシミン、ヒロイン見つけタって、本当デス?」

「あー……玲奈さんのことですか。流石に耳が早いですね……そう。今日彼女を見つけて、さっきまで一緒していました」


 玲奈さんに関しては物語的に結構重大情報だったりしますが、普通に私はゲロります。

 まあ、物語なんて分かっていても防げるものではないですし、こんなに変わり果てた二次創作世界でもメインストーリーは紡がれているのだから最早、どうしようもないのでしょう。

 ならば、私は足掻きもせず取り敢えずこの子達に悪くなりすぎないようにと眺めます。物語の結果、除かれるのは私だけでいいと信じて。


 と、シリアスしていたらゆきちゃんの頭の上に古めの電球がぴっかん。

 学校で実験に使ったものより一回り大きい白熱フィラメント光源を眩しいと思っていたら、目を輝かせた彼女が二つ尻尾ぴこぴこさせながらこう問いました。


「あれ? それって、ひょっとしてしゅりょーと一緒にひらめの前でなんだかちんちん言ってた子?」

「チンチン! 卑猥デス!」

「わ……驚いたからってアリス瓶から手を離さないで。下手したらラー油瓶割れるところだった」

「でも、チンチンは……」

「まあ、それは僕もどうかとは思うよ。そういうエッチなのは駄目だよ、吉見」

「うう……私ったらセクシーな子でごめんなさい……」

「吉見、これで本当に反省しているっぽいのが凄いよね……」


 恵は何か言っていますが、しかし確かに私は少しセクシャルに過ぎているのかもしれません。

 わらびには棒人間よりかはマシと言われた体躯ではありますが、それでもこんなに皆を惑わせてしまうなんて、なんて罪。

 私があまりの自らの業に震えていると、それをすら相変わらずニヒルな感じに見つめていた善人は、こうぽつりとします。


「はぁ……まあ、吉見のことだ。誰と仲良くなろうが、それを幾ら近くに置こうとも、最終的にオレの傍に戻ってくればそれでいいが……ヒロイン、か」

「善人?」


 言っていることはよく分からない。しかし彼の瞳はこの場の誰よりも剣呑です。

 何か善人だけが現状に深く考え入っているようであり、しかし場に馴染めないのは彼に孤独を感じさせてしまうだけじゃないかと不安がる私に。


「ならヒーローは、誰だ」


 善人は、自分に向けてのようにそう言いました。

 真面目な感じでしたが私にとって、それは愚問に近いもの。故に軽い私の口は原作知識をぺらぺらと口に乗せて囀りますが。


「うん? それは前も言いましたが宗二君で、その上で手出し無用ともお伝えしたと思いますが……」

「いいや。あの程度では、物《《足りない》》」


 首を振り、断言するのはラスボス。どうあがいても絶望だった物語の原因は、しかし問題少ないだろう現況にどうにも窮屈そうにしています。

 私は心配になるのですが、そんなの気にせず善人は更に続けました。


「物語は、きっと数奇にもアイツに力を与えるかもしれないし、それはあのゴミをオレに匹敵させるような奇跡だって起こし得るのかもしれないが……」

「なら」


 反応し、私ははたと思います。なら、どうなのでしょう。

 なら貴方は負けると断言していいのか、どうか。仮にも私は彼の上に立って安心になろうとしている一人であり、そんなことは口が裂けたところで言えるはずがなく、押し黙ります。

 すると、今度は私にも予想外の続きを善人は呟くのでした。


「だが。そんなものでオレ《《達》》に誰が勝てる?」


 なるほど。彼らはラスボスと章ボスの集合である四天王という有り得ざる存在。

 私はただこの子らをまとめていいこいいこできるからと近くに寄せていただけなのですが、確かに実際のところ戦力過多。

 流石に最高の状態の宗二君一人でも相手をするに荷が勝ちすぎることになるでしょう。


 というか普通に皆が争ったら世界がヤバいですし、鬼だって飛んでくるに違いありません。

 きっと誰にも勝ち負けなんて、つかないだろうというのが私の考えなのですが。


「オレ等の敵は。吉見……お前の全知のどこに居るんだ?」

「えー……」


 しかし、善人はそんな問いを私にかけてくるのです。

 いや、この若干天パさん、今日は中々厄介ですね。最も祝福された存在故の鋭さがガシガシ皆中してはいるのですが、しかしちょっとその疑問は通り抜けて外れているようでした。


 私は確かに、物語を知っていますし貴方達を強さ順に並べるのだって楽ちんです。

 だけれども、貴方達全員に勝てるような存在なんて。


「分かりませんよ、そんなの」


 たった《《一人しか知りません》》が、しかしそんな推しの彼女は私が《《全知識を用いて》》探したところで見つからなかったのですから、物語には関わる気がないのだと見ていいでしょう。

 なら、もう後は汀が可能性あるかなぐらいで、私には想像もつかずに、曖昧に微笑むしかありません。


 そう、全ての知識から見て貴方達はもう大丈夫だよと私はこうして本心から告げられたと思うのですが。


「そうか」


 しかし、どうにも捻くれ者さんは、真面目に受け止めることなく、そっぽを向いて何やら考えているようなのでした。



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