春を纏う少女
──気がつくと、空が、青かった。いや、青すぎた。
それだけじゃない。草の匂いが濃い。
風が柔らかくて、太陽の光がやけに眩しい。
それに太陽は僕の頭上にある。
なんだろう。夢、なのかな?
なんて思うまだボーとした頭を働かせる。
「ここは……どこ……?」
立ち上がろうとすると、風がそよぎ──
その向こうには、見知らぬ少女が立っていた。
柔らかな桜色の髪。
白いタイトなワンピースが、まるで一枚の絵画の様で
こちらを見て微笑む彼女は、春の景色そのものだった。
「ねぇ、君…。大丈夫?」
僕を心配する声はどこか涼しい鈴の音みたいだ。
近くまできた彼女は下から覗き込む様にして僕の眼をじっと見つめてくる。
薄緑の瞳は乾燥なんて知らないみたいに艶やかで、頬はうっすらと桜色に染まってる。
まるで春を切り取ったような彼女から目が離せないでいた。
息を呑むほど美しいとはよく言ったもので
一際眼を惹きつけて離さない彼女に僕は無力にも魅せられたのだろう。
そう、ひとときの春の輝きに。
ーーーきっと、この時から僕が始まったんだ。
この春風みたいな少女によって
これからとんでもなく振り回されることになるなんて──
今の僕は、まだ何も知らなかった。