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夜明けの唄  作者: サキ
はじまり
2/2

知らない場所



ホームルームが終わり、長かった1日も終わりに近づいてきた。外を見れば鮮やかなオレンジ色に濃い紫がかった空が広がっている。

10月の下旬にもなればこんなものかと駐輪場へ向かった。



「なぁ、穂高!今日カラオケ行かん?」


道中クラスメイトの八女が話しかけてきた。いわゆる陽キャという奴なのだろう。何かあるととりあえず誘ってくる。常に明るいく、うるさく、眩しいのと鬱陶しいのとが半々の絵に描いたような陽キャ。


苦手だ。

心の中で呟きながら無理やり笑顔を作る。



「ごめん!今日バイトなんだ」



我ながらスラスラと出る嘘。そもそもバイトなんてしたこともない。


「そっか!また誘うわ」


そう言いながら八女はニカッと笑って手を振りながら去っていった。

それを見送ってからもう一度駐輪場へと足を向けた。





「あれ?ない」


手には今朝まで確かにあったあのキーホルダーが無くなっていた。

カバンの中や、ズボンのポケット、ジャケットのポケットとひとしきり探してみるもののハゲ馬は見つからない。


まぁいいか。

それよりも早く映画館に向かうべく、自転車のロックを外すと勢いよく帰路についた。




時刻は16時50分。

ふと立ち止まればオレンジ色が多かった空も徐々に薄暗い紺が広がっている。

空気も少し冷えてきた。もう時期11月となろうとしているにも関わらずまだ暑い昼に比べて秋を感じられる貴重な時間に思わず目を閉じる。



甘い金木犀の香り、風の音、肌に当たる冷たい空気ーーー


少しの間秋を堪能し、再び目的地を目指して自転車のペダルを踏み込んだその時


グラッと視界が揺れた。

次第に強くなる揺れに立っていられない。

大地が今にも割れそうなほどに揺れている。



こんな時はパニックになるのだろう。頭が真っ白になっていくのがわかる。働かない頭を庇う様に咄嗟に丸まりギュッと目を瞑りながら揺れが収まるのを待つ。





どのくらいの時間が経ったかわからない。

嫌に長く感じた揺れが徐々に遠のき、最初に機能したのは耳だった。



パカパカパカーーー



何かが自身の横を軽快に通り過ぎて行った。

今日の日本であまり聞かない音にビクッと心臓が跳ねる。ざわざわと聞こえる人の話し声はあまりに不気味だった。


おかしい。


おかしいが過ぎる。

今の馬の足跡だよな?

え?なんで馬?

てかさっきまで人なんていなかったよな?

地震は?なんでこんなに呑気な声が?


思考はクリアになっているはずなのに全く状況が読めない。

意を決して頭を上げて目を開けてみる。

突き刺す様な陽の光はあまりの眩しさで目が眩む。

もうわけがわからない。


頭にはずっとクエスチョンマークだ。


視界が安定してきてようやく見えた景色は知らない街並み。

中世ヨーロッパを彷彿とさせる外観に、街行く人々の服装。頬を掠める風は生暖かく、湿気が混じる。

どこを切り取っても知らない場所だった。




「・・・なんだ、これ」




やっと絞り出した乾いた声は街の雑踏に無力にもかき消された。

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