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プロメテウス  作者: 嶽内
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序章 火花

こんにちは、嶽内です。今日から「アレスズウェイク」という軍記物語を執筆していこうと思います。

この作品はまだ黎明期で、これから色々なことが起こっていくと思います。これからどんどん物語を面白くしていこうと考えながら執筆しようとおもっているので、末永く宜しくお願いします。


椅子、書類が山積みになったオフィス机。そして、重厚な装飾がなされた壁。

部屋の長窓からは、灰色の雲で埋め尽くされた空からの光が、微かにさしこんでいた。


「チキショウ!!」


白く、整えられた髭を生やした初老の男の額には今までの苦労を表現したかのような深い皺が刻まれていた。


ヨハン=フォン=ブリューニングは、国防軍少将という国の運営の中枢に関わる職についていたせいで、嫌でも困窮極まったガリアの状況を理解せざるおえなかった。

故に、憤りも甚だしい。



 数百年間、我が国ガリアは君主制を敷いてきた。独裁政権のようだったとはいえ、今まで「国父」といわれる程の名君やら宰相を輩出してきたお陰か、革命もクーデターもなく平穏が常に保たれてきた。


だが、14年前。25歳という若さのユーグという男に冠を授けた時から、いやその前からすでに歯車は狂い始めた。


ガリアは伝統的にじわじわと領土拡大を図り、他国ともなるべく友好的な関係を築けていた。

しかし、数十年前に北方の強大国が工業改革を成功させたのを皮切りに、軒並み他の強国も改革を成功させていった。


ガリアのような中途半端な大国や中小国家は時の流れに成す術無し、という訳だ。


かのような情勢において、王が何か要らぬアクションを起こそうものなら、あっという間もなく国は崩れていくだろう。

しかし、王は起こしてしまったのだ。その要らぬ「アクション」というものを。それも立て続けに。


まず、いずれか来たる戦争やら侵攻に備え、民の多くを工業業種へ派遣させた結果、今や農民が足りなくなり、食糧が不足。


次にガリアの国際的な権威の誇示と領土の拡大のため、同盟国も立てずに手当たり次第に周辺国に戦争を仕掛けた結果、領土まで失ってしまった。


結果、食糧不足に不満をもった民衆と暴動を起こし、其れの鎮圧をしにいった兵士まで合流してしまうというもはや収拾が付かない状態になっているのだ。


ガリアが内部から崩壊するのはもはや時間の問題、と言っても過言ではない。



参謀の中枢であり、このような情勢に王国が陥ってしまった責任の一環を担っているブリューニングにとって、これは非常に頭の痛い話なのだ。


革命やらが起きた際に自分がどうなってしまうのか、気が気ではない。


そう悩み倦んでいると、

“コンコン”

部屋の扉がなった。


「入れ。」


「失礼致します。ブリューニング閣下、数分で参謀会議が予定されていますが、」


扉の外に立っていたのは綺麗に整えられた茶髪を持つ若年の男。外見とは裏腹に、その目には静かな闘志が宿っている。

ヨハンの直属の部下であり右腕のフランツ=フォン=ファールケン中佐だ。


「フランツか、そういえばそうだったな。すぐに準備するからそこで少々待っていたまえ。」


「承知いたしました。」

するとファールケンはいかにも上流階級(ブルジョワ)出身らしく、再び背筋を整え佇む。


ヨハンが書類を愛用の革製カバンにいれる摩擦音のみが部屋の中で響く中、突如として、叫喚かも悲鳴かも判らないような規制が廊下の窓の外から響き渡る。


ヨハンとフランツがそろって長窓の外を覗き見ると、そこには皮膚を半分削ぎ取られ、無残な姿になって縄で縛られた数人の罪人と、処刑人が牛刀のようなものでケバブのごとく罪人の肉を削ぎ取っているという凄惨極まりない光景が広がっていた。


これには幾度も戦場を経験してきた流石のヨハンでさえもいささか気分が悪くなる。

「またこれか、、処刑場を軍本部の目の前に設置するなど、王も議会の連中、嫌がらせにもほどがあるぞ、どうにかならんのか!」


激高し、そう声を荒げるヨハンに続き、フランツも苦虫をかみつぶしたような表情で口を開く。


「その通りですよ。正直私もあまり生身の人間の断末魔は聞きたくはありませんね、、1日一回は必ず嫌でも聞こえてくるものですから、なかなか私も心が滅入りますね、、」


もともと、軍本部のすぐそばに重罪を犯した罪人用の絞首刑台こそ配備されてはあった。たた、”処刑”を行う場所としての。


だがしかし、ユーグ王の代に入るとクーデターや蜂起を恐怖心で抑え込むために、処刑のさらに痛烈、さらに残酷な方法を模索していった結果、東方の国から伝来した人間の皮という皮という長い時間をかけてはいでいく、というこの世の人間が考案したとは到底思えない惨たらしいものに境地にいきついた。


殺人などを筆頭とする重罪を犯した者だけでなく、蜂起や革命分子も合一にこの刑が適応されたからか、何千、何万という人間がこの刑に処されたために一時期はガリア国内が血なまぐさい悪臭が四六時中漂っていた時もあったほどだ。


そのせいか定かではないが、今では政府に対し反旗を翻すものはこの国には存在しない。


軍部で働いている身としては、たまったものではないのだ。


すると、ファールケンが低く引き攣った口調で口を開く。



「毎日アレを聞かされるのも辛いですが、いつ自分の身に起こるのか分からない、というのがまた神経を削ってきますな、」


「まさに「死」のロシアンルーレット、というところか。」


「まったくですな。クーデターでも起きて、共和政でも何でも始まってくれさえすれば状況は少しは好転するんですかねぇ、、」


「いや、絵空事というわけでもないぞ、ファールケン。現にあの凌遅刑なるものが導入されるまでは、民衆の暴動やらが、必ず政変の引き金になる、と私は見ている。いずれ民に怒りが爆発して、今の政治体制が崩れる日も近いさ。まあ、民間の台頭で、立場が危うくなるのは我々だがな」


「そうですが、、この生活が続くのよりは遥かにマシでしょう。」


ファールケンのいうクーデターが起きようが、独裁政権が続こうがどちらにせよガリアの運命は同じ、破滅だ。


破滅という運命の賽が投げられているのなら、その賽の目を書き換えるまでの話だ。そうヨハンは心を奮い立たせたのであった。





「おお、ブリューニングと、それに、、ファールケンか。遅かったじゃないか、早く座りたまえ。」


「参謀会議室」という室名札がつるされた、重厚な松の木材に金色の装飾が施された扉を開けると、一教室くらいの小さな部屋、長机、数個の椅子が等間隔に配置してある。


腰かけている面々は、軍部将官クラスのエリート、政界の重鎮など、豪華極まれり、というものであった。よほど重要な会議なのだろうか。


最初に物腰柔らかな口調で口を開いたのは、ヨハン直属の上司、並びに国防軍のトップである

アルブレヒト=フォン=ヨードル元帥である・


「よし、ブリューニングたちも来たようだし始めるぞ」


ヨードルが呼びかけると一斉に皆が起立し、不気味さを漂わせる揃った動きで敬礼をする。


「して、今日はなんの軍報会議なのですか、ヨードル元帥。」


「ああ、何度断ってもどうしてもと聞かなくてな。今日は奴から緊急の議題があるそうだ。そうだな、メッセナ。」


「はい。恐れ入ります、元帥。」

一人の男が返事をする。ルイ・メッセナ少将だ。ヨハンと士官学校時代からの友人で、この会議に出席している者の中では数少ない、庶民の出で成り上がった叩き上げの男だ。ゆえに、貴族の出の御坊ちゃまで私情のことしか頭に無いほかの上級軍人とは違い、現状の社会問題に対する見識も深い。


「おまえの裁量だけで緊急会議を開くとは、どういう了見だ、メッセナ!」

「だいたい、庶民出身の世間知らずは引っ込んでろよ!」

「そうだ!引っ込んでおれ!」


世間知らずは果たしてどちらの方なのか、、 

このように、国のトップも君主ということもあり、ガリアは世襲制が深く根付いている。上級軍人、官僚、政治家などの座はほぼ全部を貴族出身のものが掌握している。庶民出身のメッセナやヨハンなどは本当に稀有な存在なのだ。

だが、ガリアと言う国では、身分が命、家系がいわゆる下級国民であるものは、どこまでキャリアを積んでも周りからは馬鹿にされ、いずれ潰される。ガリアをそういう国なのだ。


勿論、ヨハンもメッセナの野次を飛ばした連中にも一言や二言、言ってやりたかったが、やんぬるかな、あそこで口を挟めばヨハンのキャリアが総崩れだ。

緊急会議を独断で開いたメッセナも、ペナリティは無いものの、この先周囲から冷たい目で見られると言うことは目に見えているだろう。

メッセナには、そこまでして伝えたい事があるのだろうか。


「皆様、本日は会議へのご出席ありがとうございます。まず最初に皆さん、今の帝国をどう見ていらっしゃいますか?では、、そこのフランク将軍から。」


メッセナの藪から棒の言葉に、その場にいる全員が狼狽する。

「なんだ、単刀直入に言いたいことを言わんか!だいたいその質問をしてなんの意味がある!」


メッセナに指名されたフランク将軍が真っ先にメッセナに噛みかかる。


「まあ、いいではないか、フランク中将。メッセナも何か考えがあるのだろう。質問をしているだけだ、時間は取らせん。」

「元帥しかし、、フン!仕方がない。貴様の馬鹿馬鹿しい質問に答えてやろう。」


流石のフランクも、上官に介入されては歯向かうわけにも行かないようだ。


「私から見ると、王国は国民の忠誠心、協調性の不足によって蝕まれていると考える。実際この頃の王国臣民は、クーデター未遂やら暴動やら、王や王家に対する忠誠心が欠如している。

更には、暴動などを起こす反乱分子ども皆が皆口を揃えて食糧難や有りもしない王の怠惰が原因とほざいているようだが、元はと言えば農工など、実際に国の産業を動かしているのは、臣民自身だ。

それに対して、我らがとやかく言われるのは毛頭可笑しいと考えるのだが、いかがかな?」


本気で言っているのか、フランク! ヨハンはそう心の中で叫んだ。フランクが家柄で登用されただけのならずものであることは以前から認識していたが、ここまでとは。明らかな原因が目の前に転がっているの言うのに盲目にも程がある。


その後、ヨハンの番が回ってくるまでの全員が、フランクとほぼ同じ意見を提示した。そして、ついにヨハンの番が回ってくる。


「フランク中将、有難うございました。では、次にブリューニング少将、ご意見をお聞かせください。」


ここはある程度自由がある場だ。今は自分の考えを正直に話そう。ヨハンはそう思案する。


「おいメッセナ、もういいんじゃねえか?ここまで全員同じ意見なんだ。もう結果は決まりだろ?ブリューニングに聞くのはもはや時間の無駄だど思うが?」

「そうだそうだ!早く本題に入れってんだよ!」


馬面の軍人と牛面の軍人がいかにもヨハンを下に見るような口調でメッセナに声を荒らげる。愚かだ。まだヨハンの番どころか、この場のトップであるヨードルの番が回ってくる前にそのようなことを挙手もせずにほざくとは

な。


「いえ、ハイターさん、モーリスさん。これは必要事項です。この場にいる全員にお聞きしますよ。」


優しい語調でメッセナが言うと、ヨードルが無言で頷く。そして、重々しく口を開いた。


「ハイター中将、モーリス少将、全員に意見を聞くと会議の初めにメッセナが申したはずだな。この私がまだ意見を話していないにも関わらず、切り上げようとするのはいかがなものかね?少しは落ち着きたまえ。

重ねてこの場にいる全員にも言っておくが、人の話は最後まで聞きたまえ。野次を飛ばすのは慎みたまえ。

メッセナ准将、ブリューニング准将、すまない、話を継続したまえ。」


ヨードルの言葉に、ハイター、モーリスが「申し訳ありません、、」と飼い主に怒られた子犬のように背筋を丸めて静かに席に座り込んだ。


「では、改めてブリューニング少将、お願い致します。」


「私の意見としましては、皆さんが言った「民衆の自業自得」とは少し異なりますね。問題は「民衆」ではなく、私たち支配階級にあると思うんですよ。」


そう話すと、途端にその場にいるほぼ全員が顔を顰め、ヨハンを凝視した。彼の言うことがさもこの世のこととは思えない、と言わんばかりに。そんなことは気にもせず、ヨハンを続ける。


「民衆は支配者の反面教師、と言いますな。言い得て妙、まさにここ数年の王国はそれにピッタリ当てはまってるんですよ。軍主導の対外戦争やユーグ王の政策の頓挫、それによる民衆の不満の爆発。そして、弾圧強化。

全ては、私たち運営の行動と繋がっているんですよ! 

このまま、私たちが責任を擦りつけていれば、民の堕落は愚か、我が国の破滅を招きます!!」


ヨハンは今までの弱腰の姿勢が嘘かのような大声を張り上げた。

一瞬目を見開いて狼狽えたその場の高級将校たちだったが、ヨハンの訴えも虚しく、すぐに口々、密語を始める。


すると、今まで中立を貫いてきたヨードルが口を開く。

「私からも一言いいかね?」


引き締まるような低い声でヨードルが呟くと、マッセナは無言で頷き、肯定する。


「私はブリューニングの意見に賛成だな。」


「げ、元帥、本気ですか!」

突然のことに、他の軍人達は理解が追いついていないようだ。その後も、必死に自らの意見の良い所?と思われることを論弁したり、さらにはヨハン自体の悪口を言ってみたり、ヨードルを寝返らせようとしたが、彼は表情を変えず、再び口を開く。


「一度冷静になってみろ。お前らは、自分たちの利潤の事ばかりを考えて、民衆を真正面から見た事なんて一度でも無いではないか。現に私もそうだ。

今は後悔しているよ。どうして今、ヨハンに指摘されるまで気づかなかったのだろう、とな。」


ヨードルが言い終えると、マッセナが再び口を開いた。


「これで雌雄は決まりましたな。この中で言うと、、、二人は合格、後は全員不合格ですね。」


突然のマッセナから放たれた言葉に、「不合格」と理不尽にも宣告された者達が一斉に憤慨する。


「不合格とはどう言う意味だ、ええ?マッセナ!」

「そもそもなぜ早く本題に入らんのだ!時間を無駄にしおって!」


方面から飛ぶ野次に対し、マッセナは至って冷静な表情で返答した。しかし、ヨハンはマッセナの眼の奥に宿る青く、冷たい焔を見逃さなかった。いや、見逃すことができなかった。


「あなた方は黙っていてください。これ以降、あらゆる発言、行動の自由が許されるのは合格だったヨハン、そしてヨードルさんの二人だけだ。後の奴らは、、、もういいですよ!入ってきてください!」


一瞬の静寂ののち、マッセナの呼びかけに答えるように、フランス革命期のサン=キュロット達のような身なりに身を包んだ20人ほどの男が、有無を言わさず会議室に乱入してきた。


「おい、これはどう言うことだ!と云うか警備員は何をしていたのだ!」


マッセナの強行に対し、声を張りあげるヨードル。突然の事態に理解が追いつかずに声も上げられない者。また、パニックに陥り半発狂状態の者。反応は様々である。


「これよりヨハン、ヨードル以外のものは即刻捕え、投獄する。豚箱に入れられたものの罰は様々になるだろう。まあ、処刑がほとんどだろうがな。

「民衆のせい」やら、他力本願で、何も自分で成そうとしないお前らには、前々から反吐が出そうになる思いだったよ。」


そうマッセナが職務中では今までに見せたことがないような清々しい笑顔で捲し立てる。続けて、


「ああ、それと陸海空軍の首脳部達、政府高官、王族はすでに捕え、監獄に送還しました。もうあなた方の周りには魔を守ってくれるバックも、ボディーガードも存在しませんよ。」


マッセナの言葉で、空いた口が塞がらなかったヨハンがようやく正気を取り戻し、理解した。

       「「 嗚呼、これは革命なのだな。」」と。
















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