かたりばないや
カタリバナイヤが山からやってくる。
人を攫いにやってくる。
冷たい、乾いた風と共にやってくる。
月のない新月の夜に、山からやってくる。
ガタガタと戸を鳴らし、隙間から入り込み、人を攫う。子を攫う。女を攫う。
みな喰われる。
山に連れてかれ、暗い穴の底で喰われる、バリボリと喰われる。
気を付けなさい、気を付けなさい。
カタリバナイヤが風と共にやってくる。
人を喰らいにやってくる。
冷たい、乾いた風と共にやってくる。
お月様がいないときに、山からやってくる。
風の吹きすさぶ音で、戸を叩き、人を攫う。子を攫う。女を攫う。
みな喰われる。
決して帰れぬ、暗い穴の底へ連れてかれ、バリボリと喰われる。
気を付けなさい、気を付けなさい。
カタリバナイヤはお天道様が大嫌い。
昼間は暗き穴の底。
冷たく、暗い穴の底で眠っている。
お天道様がいないとき、山から起きてやってくる。
山々の木々をかき分けて、枝を揺らし、、人を攫う。子を攫う。女を攫う。
みな喰われる。
光届かぬ穴の底、暗い穴の暗闇で、バリボリと喰われる。
気を付けなさい、気を付けなさい。
カタリバナイヤには気を付けなさい。
かたりばないや【完】




