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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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おどるひと

 仕事帰り。

 遅くなると決まった場所ではなく、毎回でもないのだが、たまに、一ヶ月に一度くらいのペースで、電灯の下で踊っている女を見かける。

 

 踊りと言うのもダンスとかじゃなく、日本のお祭りで見るよな踊りだ。

 両手を上にあげてヒラヒラさせて、足をその場で交互に上げるだけのような、そんな踊りだ。


 不気味ではあるが、男から近づくわけでもないし、向こうから近づいてくるわけでもない。

 それを見かけた一番最初こそ、しばらく見入ってしまったが、今は、またいる、くらいの感覚だった。


 ただ男も関わり合いになろうとは思わないし、謎ではあるが、その謎を解き明かそうとも思わない。

 そもそも、仕事帰りで遅くなった時にしか見かけないので、そんな気力も男には残っていない。


 踊っているのが若い女なら、通報くらいしたかもしれないが、どう見ても中年女性だ。


 危険は危険なのかもしれないが、それ以上に関わりないになりなくない、そういう気持ちの方が男には強く感じられた。


 それに踊っている場所も規則性はない。

 自分の家にだんだん近づいてくる、とかなら、何らかの反応もしただろうが、見かける場所は周辺地域ではあるが特に規則性があるわけでもなく、様々な場所で踊っている。

 ただ人通りの多い場所では見かけない。

 それは、まあ、人通りが多ければ、通報でもされていたのかもしれない話だが。


 その日も残業で帰りが遅くなっていた。

 もしかしたら、あの踊っている人を今日も見てしまうかもしれない。

 そんなことを男は考えていた。


 最寄りの駅から自宅まで歩く。

 道中、出会う事はなかった、と家に着く直前までそんなことを男は考えていた。

 だが、それはいた。

 男の家の真ん前の電灯の下で、電灯の光に手を振るように踊っている。


 男は思わず顔をしかめる。

 これではどうやっても近くを通らなければならない。


 男は踊っている人から、なるべく距離を取って、道をすれ違う。

 こんなにも近づいたのは男も始めてだ。


 踊っている人、中年女性は明らかにおかしい。

 口から涎を垂れ流し、なにか言葉にならないうわ言を言いながら、無表情で焦点のあっていない目で電灯の光だけを見上げて踊っている。

 しかも、裸足だ。

 服は寝間着のような服で外に出る服ではなさそうだ。


 男がかなり近づいても何も反応を示さない。

 男は踊る人から目を離さないようにしつつ、警戒しすれ違う。


 すれ違った直後、踊っている人は、確かに男に向かい言った。

 

 たすけて。


 と。

 男が慌てて振り返ると、踊っている人はまだ踊っている。

 電灯だけを見て、言葉にならないうわ言のようなことを口から漏らしながら、踊っている。


 男はすぐに家に逃げ込み、警察に電話をかけた。

 しばらくするとサイレンの音が聞こえ、そして去っていった。


 男が家から出て恐る恐る電灯の場所を確認すると、踊っている人はもういなかった。

 あれでよかったのかどうか、わからない。

 男にはなにもかわらないままだ。





おどるひと【完】

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