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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あめのなか

 唐突な大雨だった。

 雨具も何もない。

 滝のような雨の中を男は走る。


 急いで古い店舗の、今はもう閉店しているのか、しばらく店自体が開いていないような店舗の、軒下に逃げ込む。

 シャッターと滝のような間に僅かに存在する軒下へと逃げ込む。

 びしょびしょになってしまった服をハンカチで拭うが、すでにあまり意味はなさそうだ。


 恐らくはゲリラ豪雨の一種なのだろうが今のところ止む気配がない。

 物凄い勢いで雨が降っている。

 歩道も排水が間に合わず水が溜まっているほどだ。


 男は困りながらも、辺りの様子を伺う。


 分厚い雲、そこから降り注ぐ豪雨。

 水浸しの世界。

 雨と土の臭いが漂う。

 灰色の世界。


 こんな雨の中だ他に人も出歩いていたりはしない。

 たまに車が通るが、水を跳ねられないように注意する方が大事だ。


 そうして、雨宿りするが五分、十分で様子が変わるわけもない。


 男がどうしようかと迷っていると、車道を挟んんで反対側の歩道を歩く女性が目に留まる。

 赤い傘に赤いレインコート、そして赤い長靴を履いている。


 何より背が高い。


 目の錯覚かと思ったが、自分を今、雨から守ってくれている軒よりも背が高い。

 少なくとも二メートル以上はあるように男には思えた。

 二階の窓から傘の頭がチラチラと見えるくらいには背が高い。

 少し、現実離れした大きさの女性と男は思った。


 それを男が女性と思ったのにはいくつか理由がある。

 まず異様に痩身だった。背が高いわりに枯れ木のように痩身だった。

 そして、何より黒く長い髪が赤い傘から見えていたからだ。

 体系などはレインコートを着ているのでよくわからない。

 でも赤のレインコートを着ているので、やっぱり男にはそれが女性に思えた。


 それがゆっくりと歩いている。


 男は茫然とその女性を見続けた。

 女性が美しいからではない。

 目を離したらヤバイ、と男は直感的に悟っていたからだ。


 そんなわけはないのに、目を離した瞬間に襲われるのではないか、そんな気が男はしていた。

 男は気を張り詰めて、その背が高い赤い女を見る。いや、見張ると言った方が良い。

 そんな男をまるで気にしないかのように、背の高い女はゆっくりと歩いて行った。


 女が見えなくなるまで男が目を一時も離さないで見ていた。

 背の高い赤い女が見えなくなくったあと、男は助かった、とばかりに肺にたまっていた淀んだ空気を吐き出した。

 それからしばらくすると雨が急に止んだ。


 男の頭の中に、雨女は背が高いのか、と言う疑問が浮かんできた。


 ただそれだけの話だ。




あめのなか【完】

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