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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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せんこうのにおい

 新しく引っ越してきた部屋はお線香の匂いがする。

 目の前がお墓だからだろうと男は思っていた。

 だからか家賃がとても安い。

 それにしてもこの部屋の家賃は安すぎるので、また別の理由があるのかもしれない。

 

 部屋にはお線香の匂いがする。

 窓を閉めていてもお線香の匂いがする。

 部屋に匂いが染みついてしまっているのだろう、そう男は思っていた。


 ふとした時に香よってくる。

 まるでそんな匂いを漂わせている人が歩いているかのように、ちょっとした風に乗って匂いを漂わせてくる。


 三か月、男がその部屋に住んでおかしいことに気づく。

 どんなに消臭しても、別の匂いを部屋に染み付かせても、お線香の匂いだけは消えることがない。


 もう墓場のほうの窓はしばらくまともに開けてもいないのにだ。


 男は少し自棄になる。

 夏の時期になったし、墓場が近くにあるせいか、自然も多く蚊が多く湧いていた。


 だから、男は蚊取り線香を部屋の中で炊いた。

 どうせ元から線香の匂いが染みついているのだからと。


 蚊取り線香から煙が上がり部屋を少しづつ満たしていく。


 そんなに広くない部屋だ。

 蚊取り線香が半分くらい燃える頃には部屋は蚊取り線香の煙で満たされていて煙すぎるくらいだ。


 男もちょっと馬鹿なことをやり過ぎたか。

 そんなことをちょっと思う。


 その時、ふと香る。

 蚊取り線香ではないお線香の匂いが。


 蚊取り線香の煙で満たされているはずなのに、人ひとり分の空間が、蚊取り線香の煙をかき分けるように動き、それは蚊取り線香の前で立ち止まった。

 そして、それは恐らくだけど、蚊取り線香の前に座り込んだ。

 

 蚊取り線香の近くなのに、その人ひとり分の空間だけが、澄んだように煙を寄せ付けていない。

 

 男は理解する。

 ここには自分よりも先に住んでいた住人がいたのだと。


 男はその次の日に、小さな神棚を買ってきて、毎日少しのお酒とご飯を、線香と共に供えるようにした。


 それで線香の匂いが消えるわけではないが、なぜか見守られている気がするようになったという話だ。

 




せんこうのにおい【完】

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