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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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つかまれる

 少し寝苦しい夜だった。

 まだ春先なのに蚊がいるような、そんな夜だった。


 蚊の羽音が顔の付近をちらつかせ、眠るに眠れない。

 そんな夜だった、ただそれだけの夜だったはずだ。


 男は暑苦しいと思いつつも、蚊の羽音が嫌で頭から布団をかぶる。

 それでも蚊の羽音が気になって仕方がない。

 ただ少し小さめの布団だったので、男が頭から布団をかぶると背の高い男の足は布団から出てしまう。

 それでも蚊が顔の付近に寄るよりはましと、男はそのまま眠りにつく。


 ふと、まだ夜中なのに目が覚める。


 暑苦しいと思っていたのに、部屋の中が妙に寒い。

 真夜中になって冷え込んだか、男がそう思っていると、冷たい、ぞくぞくするほど冷たいなにかが布団から出ている男の足首を掴んだ。


 男は驚くよりも早く恐怖を感じた。

 背筋がゾクゾクするような、そんな恐怖が男に伝わってきた。


 男はもがくが足を掴んだ存在は男の足を離さない。

 引っ張るわけでもない。

 ただ掴んでいるだけなのだが、冷たいその手を、底冷えするような、その手を足から離そうとしない。


 それに体が金縛りなどで動かないわけでもない。

 ただ足を掴んでいる力は強く足だけは動かすことができない。

 男は勢いよく半身を起こす。

 そして、暗闇の中で自分の足を見る。


 そこには自分の足があるだけだ。

 それを掴んでいる者など何もいない。


 けど、それなのにしっかりと掴まれている感覚だけが伝わってくる。

 冷たい手でしっかりと掴まれている感覚だけが。

 

 男は掴まれている部分の足の付近を手で勢いよく払った。

 何もない。

 しいて言うならば、冷たい、本当に冷たい空気がその辺に漂っているのがわかった。

 ただ足は掴まれていて動かない。

 がっしりと何もないのに力強く掴まれているように動かない。

 男は手の届く範囲の明かり、テーブルライトに手を伸ばす。

 そして、なんとかその電源を入れる。


 薄暗く頼りない明かりがつく。

 男がそれから自分の足のほうを見る。


 そこには黒い闇があった。

 明かりに照らされて、はじめてわかった。

 暗闇のようなものが自分の足を掴んでいると。

 男はその闇を手で払おうとして気づく。


 それが闇ではないことに。


 それが髪の毛であることに男は気づく。

 長い髪の毛の塊が自分の足と足の間にあるのだ。


 そして、それが、その髪の毛の塊が動く。

 少しづつ、浮き上がるように動く。

 そうして、ギョロっとした目を男に向ける。

 濁った黒い眼玉を男に向ける。


 男が悲鳴を上げると、その目も髪の毛も沈むようにベットの下へと消えていった。


 足から掴まれている感覚が消えて自由になる。

 男はすぐに部屋の電気をつける。

 明るく白いLEDライトの光がすぐにつく。


 男は髪の毛があった辺りを確認するが今は何もない。

 ただ数本の長い髪が残っていた。


 男は、気持ち悪いと思いつつそれを集めてごみ箱に捨てた。

 そして、念のためと髪の毛が沈んでいったベッドの下も確認する。


 それはいた。


 ベッドの下に、ギョロりとした目を向けて、黒く長い髪の塊が男を見ていた。

 男はそれを見て気絶する。

 

 朝になって男が気が付くと、男は床に倒れ込むように寝ていた。

 床に倒れ込んでいたせいか体が痛い。

 電気もつけっぱなしだ。

 そして、どうも体が重い。

 立ち上がるとふらふらする。

 床で寝てしまったせいで風邪でも引いてしまったようだ。


 男はふらつきながらも病院に行く。

 風邪と診断され男も納得する。

 病院から家に帰ることには高い熱が出ていた。


 それから一週間ほど男は寝込むことになる。

 夢であの髪の毛の塊に掴まれながら。





つかまれる【完】

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