あめ
雨が降る。
夜に雨が降る。
雨戸を叩く様な雨が降る。
雨音がする。
地面を叩く雨音がする。
雨戸を叩く雨音がする。
夜に、少女は雨音を聞きながら眠りにつこうとする。
外は凄い雨だ。
雨音が激しすぎて少女は不安に苛まれ、上手く寝ることが出来ない。
少女は開き直って雨音を注意深く聞き始める。
雨が様々なものを、外にある物全てを叩く音がする。
少女の頭の中に外の情景がどんどん描かれていく。
この音は雨戸を雨が叩く音。
これは壁を雨が叩く音。
少し遠くから車のボンネットを雨が叩く音も聞こえてくる。
これは木を、これは地面を、と様々なものを雨が叩くことが聞こえる。
雨によりできた水溜まりを雨が叩く音も。
どんどん少女の中で外の想像上の世界が広がっていく。
そこへ、異音が紛れ込む。
誰かが歩く音。勢いよく歩く音。
水溜まりに勢いよく飛び込むような。
跳ねて歩く様な、そんな音が聞こえ始める。
少女はその音の主を想像できない。
真夜中に、しかも、こんな豪雨の中、水溜まりに飛び込む勢いで歩く者を少女は知らない。
だからと言って、少女はその音の主を確認しようとはしない。
少女の目的は寝ることだ。
この想像は寝るまでのただの暇つぶしなのだから。
少女が想像の世界を広げようと、耳に意識を集中する。
雨音を聞こうと集中する。
水の流れる音がする。
屋根から雨が流れる音がする。
その音を少女は聞く。
もっと聞こうと集中する。
次の瞬間、バァンと雨戸を叩く様な大きな音がする。
耳を澄ましていた少女は驚く。
強い風でも吹いたのだろうと、少女は思った。
そして、また耳を澄ます。
少女の耳に聞こえて来たのは何者かの息遣いだった。
雨戸のすぐ外から聞こえる、息を殺したかのような息遣いだった。
少女は布団の中に頭から潜り込み震えながら眠った。
あめ【完】




