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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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とけい

 家に古く大きな壁掛け時計がある。

 少しでも物音がなくなると、コツコツコツとその時計の秒針の音が鳴り響く様な、そんな古く大きな時計がある。


 木材の彫刻で大きな花束の意匠が施されている壁掛け時計。

 少し怖さのある、見ていると引き込まれそうになるような、壁掛け時計だ。


 少女はその時計が怖かった。

 理由はわからない。

 ただその何の花かもわからない、花束を模られた大きな壁掛け時計が怖かったのだ。


 留守番をしているとき、コツコツコツと音をなりび聞かせる壁掛け時計。

 夜、静まり返った大部屋で、コツコツコツと秒針を鳴らす壁掛け時計。

 なぜか少女が一人の時、その壁掛け時計から視線を感じる。

 そんな気がしていたからかもしれない。

 とにかく少女は壁掛け時計が怖かったのだ。


 ある日の昼下がり。

 少女は家に一人でいた。

 なんとなく大部屋で暇を潰していた少女は、不意に視線を感じる。

 視線の元を探るとやはりあの花束の意匠の壁掛け時計から視線を感じる。


 今は一人だが、昼と言うこともあり少女は少し強気だった。


 少女は壁掛け時計の前まで行って時計を観察する。

 精巧で複雑な花束の意匠が施されている。

 綺麗だとは思うが、少女にとっては不気味さの方が勝っていた。

 ところどころくりぬかれているところがあり、時計の向こうの壁が見えている。

 特に変わったところはない。


 少女が観察している間も、時計は淡々とコツコツコツと時を刻み続ける。


 少女はもうしばらく時計を観察する。

 そして、やっと視線の正体に、時計が不気味に思えていた正体に気づく。

 この時計は騙し絵になっていて、巧妙に人の顔が隠れて彫り込まれている。

 花の模様が、葉と葉の間が、枝と枝の重なり合いが巧妙に折り重なり合い、よく見ると人の顔のように見えるのだ。

 一度気づけばそれがはっきりとわかる。

 年老いた老人の顔が花の意匠で隠れるように描かれている。

 疲れたような難しい顔をした老人の顔が意匠によってだまし絵のように描かれているのだ。


 少女は驚きはしたが、納得もした。

 この顔が隠れていたせいで不気味に感じていたし、視線のような物も感じていたのだと。


 少女は両親が帰ってからそのことを告げる。

 そして、その時計を見る。


 が、どこをどう見ても老人の顔は見えない。

 両親は見間違えたんじゃないか、と言っているが、少女はそんなことはないと、しばらく壁掛け時計を見続けた。

 ただやはり老人の顔はどこにも隠れていなかった。


 その夜になり一人で少女がその時計をもう一度見る。

 そうすると老人の顔を時計の意匠の中に見つけ出すことが出来た。


 だが、昼間、見ることが出来た老人の表情とは違う。

 今、浮かび上がってきた老人の表情は笑っていている。

 それも、少女を嘲わらうかのような、嫌な笑みを浮かべていた。


 少女は怖くなり一人でその時計の前に立つことをしなくなった。




とけい【完】

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