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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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らくがき

 少女は恐れおののいていた。

 その存在は少女には理解しがたい存在だった。

 夕闇に赤く染まった世界。

 それはそこにいた。


 ガラス窓に張り付いて、それは少女を見ていた。


 いつの間にか、それは家のガラス窓に張り付いていたのだ。

 何が?

 少女はそれを説明する言葉を持たない。

 いや、少女だけでなく大抵の人間はそれを説明できる言葉を持たないだろう。


 一言で言ってしまえば、下手な落書きだ。

 それが紙から抜け出てきて、窓に張り付いているのだ。


 雑な線だけで構成された顔が、絶えず形を変えながらも、顔という形を取り続けている。

 顔だけでなく胴も四肢もあるのだが、頭部の部分が大きく、全体的に顔といった印象が強い。


 そんなものがガラス窓に張り付いていたのだ。

 少女も絶句し、恐怖で完全に思考を停止させていた。


 少女は何も考えることができず、その奇妙で異様な顔を見続けた。

 そして、それが小さな虫の集合体であることに気づいた。


 小さな黒い虫が集まり、落書きで描いた人のような形を取っているのだと。


 それは小さな虫の集まりだ。

 いくら集まったところで窓ガラスを破れるようなものではない。

 少女はそれが分かり、やっと思考が動き出す。


 思考が動き出した結果、少女はパニックになる。

 ただでさえ虫が嫌いなのに、大量に集まり、人の姿をまがいなりにも取っているのだ。

 大きな声で悲鳴を上げ、少女はそれが張り付いた窓から離れて逃げていく。


 少女が母親に泣きつき、母親と共に戻ってきたとき、奇怪な虫たちは既に跡形もなく消えていた。


 その夜、少女は夢を見る。

 体が動かないのに、黒く小さな虫たちが自分の体を這いまわる夢を。


 それ以来、少女は虫がさらに嫌いになった。

 もしかしたら、虫たちも少女のことが嫌いだったのかもしれない。







らくがき【完】

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