あめのふるごご
その日の午後は大雨だった。
風はそれほど強くなかったが、とにかく大粒の雨がたくさん降り注いでいた。
大粒のせいか雨音も大きい。
少女はそんな雨音を聞きながら、大きな窓を通して外の景色を見ていた。
ふと異様なものを感じ、少女は視界の端に視線を送る。
遠く離れた視線の先に大きな人がいた。
辺りの建物などと比べても、二メートルは優に超えるような身長をしている。
髪が長く見えたので女性に見えた。
手足が細く長い。あまりにも長くある種の昆虫を思わせるほどだ。
白いワンピースのような服に赤い傘も差していた。
そんな存在が窓から見えたのだ。
少女はすぐに、それが人間じゃないと理解できた。
とても異質で良くないものだと、本能でそれを理解できた。
そんな異質さがそれにはあった。
それは傘を差しながらも悠然と道を歩いている。
あまり見続けてはいけない。
それが分かっていても、あまりにも危険だと感じすぎて、それから目を離すことができない。
まるで抜き身の包丁を目の前に翳されているような、そんな感じなのだ。
否が応でもそれに視線がいってしまう。
だから、少女は身を隠した。
あの得体のしれない存在に自分のことに気づかれてはいけない、そう思えてならなかったからだ。
少女が身を隠した途端、ガラスの窓に大きな雨粒がバンバンと音を立ててぶつかってくる。
窓ガラスの先が水で歪み見通せないほどだ。
既に気づかれてしまっていたのだと、少女は理解した。
隠れるのが遅かった。いや、そもそもあれを一目でも見てしまったのがまずかったのだ。
少女がいる部屋はマンションの六階だ。
だが、不自然な大雨は高所の窓ガラスを、ここだぞ、と知らせるように打ち付けてくる。
少女はすぐに窓のない部屋に逃げ込み、その部屋の隅で小さく縮こまって震えていた。
しばらくすると、母親の大きな悲鳴が聞こえてくる。
自分の代わりに母親が襲われたと思った少女はいてもたってもいられなくなり、部屋を出ていく。
そこに見えたのは、開きっぱなしになった窓と雨が打ち込んでびしょびしょになったリビングだった。
少女は泣きながら自分じゃないと訴えたが、母親はそれを信じなかった。
それと雨が打ち込んでしまったリビングが妙に生臭くなってしまった。
あめのふるごご【完】




