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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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じゅえき

 大きな古い木から樹液が流れ出ていた。

 少年は昆虫博士だ。

 この時期、春になる前に樹液が出るのは珍しいと知っている。


 樹液が出る主な原因は虫が木を傷つけるからだ。

 だから、まだ寒いこの時期に、虫がまだ活発に活動していない時期に樹液が出るのは珍しいと知っていた。


 少年はその木に近寄り、何の虫の仕業だろうと、観察する。

 確かにカミキリムシの幼虫が開けたような穴がある。

 まだ四月になったばかりのこの時期に随分と早い、少年はそう思った。


 その樹液は茶色というよりも赤黒く、一見して血のようにも思えた。


 大きな古い木が傷つけられていることに少年は心を痛める。

 だが、できることもない。

 樹液があふれ出てきている穴に針金でも差し込めば、幼虫を殺すことはできるかもしれない。

 だが、虫好きの少年にはそんなこともできない。


 少年がどうしようか、と思っていると、少年の頭の上に何かが落ちてくる。

 細い枝だ。

 少年の頭の上に、細い枝が急に落ちてきたのだ。


 少年が枝が落ちてきた方を見上げる。

 そこには顔があった。


 人のものだが、人ではない。

 それは木だった。

 古く大きな木が、その樹皮が人の顔のようになり、少年を見下ろしていたのだ。


 少年がそれを見て固まっていると、その顔が少年に告げる。

 その枝で巣食う虫を突き殺せ、と。


 少年は手に持った枝を見る。

 確かにこの枝なら、小さな穴に入り幼虫を刺し殺せるかもしれない。

 だが少年は動けない。どうしたらいいのかわからない。

 動けない少年に木の顔が続ける。

 ならばお前を喰うてやるぞ、と。


 少年は慌てて泣きながらも、樹液があふれ出てくる穴に枝を突き刺した。

 何度も何度も突き刺した。


 すると、それでよい、顔はそう言って普通の樹皮へと戻っていった。


 少年は枝を穴に突き刺したまま逃げ帰った。

 しばらくしてから少年がその木の近くを通りかかると、少年が枝を突き刺したところから、新しい枝が生えてきていた。

 あの枝がそのまま癒着したのかもしれない。


 あの事があって以来、少年は虫を簡単に殺せるようになってしまった。





じゅえき【完】

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