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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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おおうて

 夕方、買い物帰りの女が、薄暗くなりつつある道を歩いている。

 暗くなる前に帰りたい、女はそう思い、少し早く歩く。


 その間にも日はどんどん落ちていき、世界が闇へと包まれていく。

 これは急いでも間に合わない、そう悟った女は少し遠回りになるが、街灯がある明るい大通りを通って帰ることを決める。

 そして、早歩きだった歩みをゆっくりとした歩みに戻した瞬間だ。


 視界がふさがれる。

 後から、音もなく手が伸びてきて視界を隠されたのだ。


 真っ黒い手だった。

 顔に触れる手は水のように冷たい。

 何より臭い。

 腐敗臭とでもいうのだろうか、そんな臭いがする。


 すぐに女はその顔に覆いかぶさってくる手を振りほどこうとするのだが、体が動かない。

 足も手も全く動けない。


 人通りのない裏道で、女は棒立ちのまま動けなくなる。

 恐怖と混乱の感情が女を支配する。


 頭の中では様々なことが凄まじい勢いで流れ込み、パニックに陥るが体を動かすこともできない。

 どんなに体を動かそうとしても、せいぜいブルブルと震えるくらいで、体が動くことはない。

 そして、耳元で誰かに囁かれる。


 ダーレダ?


 自分の顔を覆う手の持ち主の声だろう。

 誰だか見当もつかない。

 恐らく人間ではない。

 幽霊、お化け、妖怪、怪異、そんな言葉が女の頭の中をよぎる。


 口には出していない。頭の中でそれらの言葉が思い浮かんだだけだ。

 なのに、


 ハズレ……


 と、耳元でささやかれる。

 そして、顔を覆っていた手の主は、続けて囁く。


 アト二回ダヨ?


 と。

 そして、女の顔を、視界を塞いでいた手はスッと引っ込んでいく。

 背後に、何か強烈な存在感を女が感じつつ、その存在感は女から徐々に去って行く。

 完全にその気配を感じられなくなった時、女の体はやっと自由を取り戻した。


 自由を取り戻した女はその場に腰を抜かしたように、座り込み、立てなくなってしまう。


 そんなことよりも女は恐怖していた。

 あと二回しかない。

 それまでに正解を導けないのなら、恐らく自分はあの存在に連れていかれてしまう、と。


 あの冷たく腐ったような手の主が誰なのか、女には見当もつかない。






おおうて【完】

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