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あかいやなり

 家鳴り。

 木材が温度差などによって収縮することで音が鳴る現象だ。

 ただの現象であって異常な事ではない。

 理由も判明している。

 恐れることもない。

 ただの木材が軋む音だ。

 

 そう、この部屋に住む男もそれを知っている。

 寝るときに電気を消すと家鳴りが始まる?

 確かにそう感じる。

 それは電気、部屋の明かりを消すことで、視覚情報が遮断され聴覚情報が鋭敏になるからだ。

 この部屋に住む男はそのことを知っている。

 だから、家鳴りなどで恐れたりはしない。


 ただその日はやけに家鳴りが続いていた。

 パキ、パキパキ、パキと。

 この間、少し大きな地震があったので、その影響かもしれない。

 男はそう思った。

 これが続くようであれば、この家を建てたときの工務店に相談でもしなくてはいけないのかもしれない。

 そう考えていた。

 それほど、今日の家鳴りの音は大きく、断続的に続いていた。

 これほど大きな音であれば、電気をつけていても気づきそうなものだが、と考えはするが、それほど深くは考えない。

 男はもう眠ることに差し掛かっていたからだ。


 その時、眼前が赤く光る。

 家鳴りの音に合わせて、確かに赤く一瞬、光った。

 男は何事か、と思い目が覚めるが、瞼は閉じたままだ。

 たしかに、瞼を閉じたままでも、強い光を当てられればその光は瞼を貫通し光をある程度は感じることはできる。

 それ自体は変な事ではない。

 問題は、なぜ目を閉じていても感じれる光が生じたのかだ。

 男は恐る恐る目を開ける。

 もしかしたら火事でも起こっているのかもしれない。

 そう案じたからだ。

 だが、そこはただ暗い自室だ。

 目ももう暗闇になれ、ある程度は見渡せる、そんな暗闇だ。

 一応辺りを見回したり、匂いを嗅いだりして、すぐに火事ではないことは理解できた。

 なら、気のせいだったのだろう。

 そう思い、再び目を閉じる。

 しばらくして、また家鳴りがする。

 またか、と男は思いつつも、眠りにつこうとする。

 その瞬間、また眼前が、瞼を閉じているにも拘らず、家鳴りの音と共に一瞬だけ明るくなるのを感じる。

 これは気のせいではない。

 流石に男もそれを理解する。

 そして、急いで目を開くが、そこはいつも通りの自室でありなんの異変もない。

 男は、そのまま目を開け、周りを伺う。

 やはり異変ない。

 男は深く息を吐き出した後、再び目を閉じる。

 今度はすぐに家鳴りの音がなり、そして、やはり眼前が赤く光るのを感じる。

 男は即座に目を開くが異変はない。

 今度は音のしている方を、左のほうの天井を見る。

 見続ける。

 変化はない。

 体感で五分程度は、そちらの方を見ていたはずだが、何も起きない。

 家鳴りの音すら聞こえてこない。

 仕方がないので目を閉じる。

 今度は少しの間をおいてから、ビシッと大きな音と赤い光を感じる。

 流石に気のせいなどと言っている場合ではない。

 男はベッドからおき、部屋の電気をつける。

 そして、音のしたベッドから左側の天井を腕を組んで観察する。

 何もおかしいところはない。

 なにか、虫でもいてくれれば適当な理由でもつけれるのに。

 と、男は思うのだが、虫一匹いる様子もない。

 音が鳴る理由はまだしも、光を感じる理由がわからない。


 共感覚。

 この男がというもの知っていれば、それを理由にしたかもしれないが、男はその言葉を知らなかった。

 男が体験しているこの現象がそうであったのか、なかったのか、それはわからない。

 男は電気をつけたままベッドに横になる。

 そして、目を閉じる。

 電灯の明かりを瞼を閉じていても感じる。

 だが、あの家鳴りと共に感じた光とはどこか違う。

 たしかに瞼の裏側から感じる光は赤く見えなくもない。

 だけれども、違うのだ。明確に違う。

 家鳴りと共に感じたあの光は、確かに鮮烈な赤を感じていたのだ。

 電気をつけたせいか、家鳴りの音も止んだ。

 原因は不明だが、電気をつければ収まるならそれでいい。

 男はそう思って、布団を頭からかぶった。

 その瞬間、ミシッという軋む音と共に走り抜ける、瞬間的な赤い閃光を男は感じる。

 頭から被った布団をすぐに払いのけ、音のする方向に目をやる。


 そこには何もない。

 何も異変はないのだ。

 だから、男は不安になり恐怖に震えた。

あかいやなり【完】

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