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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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じぶくろ

 地袋。

 床近くに設けられた低い位置の物入れのことで、小さな押入れのようなものだ。


 少年は和室にいた。

 大好きだった祖母がなくなり、和室の主がいなくなって以来、少年は和室で過ごすことがある。


 嫌なことがあった時。

 親に怒られた時。

 塞ぎこんだ時。


 そんな時に和室で少年は過ごすのだ。

 優しかった祖母を思い出してのことだ。


 その日も、少年は母親に叱られて、和室に閉じこもっていた。

 気が付くともう夕暮れ時になり、窓から差し込む日の光はなく、暗闇が見えるだけになっていた。


 少年もそろそろ和室を出よう、そう思っていた時だ。

 地袋の襖が少しだけ開いていることに気が付いた。


 少年は普段使いもしないし開けもしないので、中に何が入っているかも知らない。

 その小さな細長い襖が、少しだけ開いているのだ。

 少しだけ開いている襖から、窓の外を同じように、いや、それ以上に真っ黒な闇が覗き込んでいる。


 しばらくその隙間の闇を見つめていると、闇からスッと指が現れて襖を掴む。

 その指は節くれだっていてしわしわで、老人のものに思えた。

 ただ、地袋の中に子供ならともかく大人が入り込めるようなスペースはない。


 普段なら少年も驚いて逃げていたかもしれない。

 しかし、落ち込んでいた少年は、大好きだった祖母が自分を励ましに来てくれたのだと、そう思ってしまった。


 その手に向かい少年は、おばあちゃん? と声を掛ける。

 するとその声に反応するように、一瞬手がピクリと動く。


 そして、地袋の襖をもう少し開き、手全体を闇の中ら出して、少年に向かい手招きを始めた。

 少年がその手に近づこうとしたところで、地袋の襖が勢いよくピシャリと閉じられた。


 少年が見上げると、そこには鬼の形相をした母親がいて、足で地袋を閉めていたのだ。

 その後、母親は少年を抱きかかえて、和室から逃げるように出ていった。


 その夜、少年は父親から言い聞かされる。

 あの手は、いいものではないので、絶対に近づいてはいけない。

 和室だけでなくこの家の色々な場所で見かけることはある。

 あれは祖母ではない。

 昔から家に憑りつく妖怪のようなものだ。

 父も子供の頃に一度だけ見たことがある。

 そして、このこと自体、人に話てもいけない。


 詳しくは、おまえが大人になってから話す。

 父親がそう言ったが、少年が大人になってもその話を聞くことはなかった。






じぶくろ【完】

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