のぞいてくる
少女が道を歩いていると、前方の曲がり角から、上半身だけを傾けて覗き込んでくる人を見かけた。
それは張り付いた笑顔の中年女性だった。
気味悪く思った少女は、中年の女性が覗いてくる方の道を引き返し、別の道を選び進む。
するとその道の先にも、笑顔の中年の女性が上半身だけを出して曲がり角から覗いてくる。
さっき覗いていたのと同じ女性だ。
少女がまた道を変えようとすると、その女性が話しかけてくる。
そっちじゃないのよ。
と。
少女には訳が分からない。
少女は振り返り、曲がり角の先にいる女性を遠目から観察する。
まずあまりにも不自然だ。
手も足もピンと伸ばし、直立不動な状態を四十五度ほど傾けたような、そんな姿勢なのだ。
両手をそろえているので、手で支えているわけではない。
それなのに、かなりの角度で傾いているのだ。
それが少女にはどうしても気味悪く思えて仕方がない。
お面のような張り付いた笑顔も不気味さに一役買っている。
とはいえ、話しかけられたのも事実だ。
少女は、あなたは誰ですか? と返事を返す。
返事は…… 返ってこない。
張り付いた笑顔の女性は人形のように、動きそうで動く気配すらない。
ただ、曲がり角から上半身を出して、少女を覗いているのだ。
返事がないので少女は、そっちじゃないってどういうことですか? と再度質問する。
無論、返事は返ってこない。
どうしていいかわからず、少女はその場で立ち尽くしていると、覗き込んでいた女性がスッと曲がり角から姿を消す。
少女は急いで曲がり角まで行くと、そこにはもう誰もいなかった。
ただまっすぐな道が続いていた。
少女はその道を進む。
ゆっくりと進む。
そして、少女は目を覚ます。
そこは病院のベッドの上だった。
聞いた話では少女は交通事故に遭って、数日もの間、生死を彷徨っていたそうだ。
のぞいてくる【完】




