そうしき
男が駅から家までの帰り道を歩いていると、葬式をやっていた。
恐らくはお通夜だ。
誰が死んだんだろうと、そう思いつつ男は〇〇家という看板を見る。
男の知らない名字だ。
少なくとも自分の知り合いではなさそうだ。
男はそう思って安心する。
お通夜会場の入口に男は違和感を覚える。
あまりジロジロと見るのも失礼かと思っていたのだが、男はそれを見つけてしまう。
いや、嫌でも目についてしまう、とでもいうのか。
なぜか会場の入口に白無垢を着た女が俯いて立っていたのだ。
男は見間違いかと思いもう一度、会場の入口に目をやる。
そこには白無垢を着た女がやはりいる。
そこはかとない不気味なものを男は感じ始める。
幽霊か何かか、そう男は思っていたが、会場に入っていく客の何人かが、その白無垢の方を向いていたり、避けて会場へと入っていっていたのだ。
少なくとも幻や幽霊といったものではなさそうだった。
ただ、縁もゆかりもない葬式だ。
いつまでも見ているのはやはり失礼だ。
男は不思議に、そして、不気味に思いながらも、その葬式会場を後にする。
白無垢を着ていた人物は、本当に微動だにしなかったので、もしかしたら人形に着せていたのかもしれない。
そんなことを思ったが、それでも葬式でそんな人形を入口に飾るのもどこかおかしい。
もしかしたら故人が結婚が近い花嫁だったのかも、そんなことを男は考えた。
ただ男は葬式の会場の入口に白無垢姿の女がいるということがとても印象深く記憶に残っていた。
それから十数年が経ち、少し年老いた男が最寄りの駅から帰るとき、葬式をしていることに気づく。
男は十数年前の白無垢のことをすぐに思い出す。
あれは何だったのだろう、と考えるが答えは出ない。
葬式の会場、その入口を見るが白無垢姿の女性が立っていることもない。
男は再び家に向かって足を踏み出した時、背筋をゾクゾクとする寒気が走った。
なんとなく、男は葬式の会場の方を見る。
すると、葬式の会場から、白無垢姿の女性が出てきていた。
だが、何もかもがおかしい。
その白無垢姿の女性は、成人男性の二、三倍ほどの背丈があり、葬式会場の入口から、無理やり這い出るように出て来ていたのだ。
まるで蛸壺から出てくる蛸のように、体をくねらせて葬式会場の建物の入口から、這い出て来ていたのだ。
それを見た男はその場から走って逃げだした。
あれがなんだったのか、男には理解できない。
ただ、とてつもなく不吉なものに思えて仕方なかった。
以後、男がその会場の前を通ることはなくなった。
そうしき【完】




