おとしもの
もう深夜だ。
男は夜道を自分の家に向かい歩いていた。
男が住んでいる場所は若干の田舎だ。
田舎というよりは郊外とでもいうべきか。
森や林と呼べるような場所が、所々にあり、民家の隣が必ずしも民家というわけでもない。
そんな場所に住んでいた。
男が歩く道も暗く、街灯がその道のすべてを明るく照らしてくれているわけでもない。
街灯と街灯の間隔は長く、道が照らされない場所も多い。
そんな道を男が歩いていると、何かが、ボトリと落ちて来た。
結構な大きさだ。
そして、どこか柔らかい音にも聞こえた。
ただ、その何かが落ちてきた場所は、街灯と街灯のちょうど真ん中で、男はそれを目視はできなかった。
何か大きなものが上から落ちて来たくらいの感覚だった。
男は落ちて来た物の大きさ、それこそ人よりも大きな塊に恐怖する。
人より大きく柔らかいものといえば、熊が一番最初に思い浮かんだからだ。
だが、それは落ちてきた場所でのたうち回ってはいるが、一向に起き上がろうとはしない。
熊ではないのかと、男が道を引き返そうかどうか迷っていると、それはのたうち回りながら、いや、伸びるように移動し始めたのだ。
その移動する姿はまるで人間大のナメクジがいるかのようにだ。
影になっていてしっかりとは見えはしないが、それでも男を飛び上がらせるほど驚かすには十分だった。
男は何が落ちて来たんだ、と叫びながら、落ちて来た得体のしれない何かから、走って逃げた。
最寄り駅まで逃げ帰ってきた男は、なんとかタクシーを捕まえられたので、それで家に帰ることにした。
ただ、結局はあの何かが落ちて来た道は通らなければならない。
タクシーに乗り、先ほど逃げ帰った道に差し掛かる。
男は怖いと思いながらも、フロントガラスの先を見ていた。
特に変わったものは落ちていない。
あれは何だったのか、男がそう思った時だ。
ドンッと鈍い衝撃がタクシーに伝わってくる。
運転手はすぐにタクシーの運転を止め、車をその場に留める。
男が運転手を見ると、運転手が青い顔をしている。
何があったと聞くと運転手は、空からミイラが降って来て轢いてしまった、そう言ったのだ。
男は、ミイラ? と聞き返しつつ、タクシーの中から周囲を探す。
外を見回している間も、自分が見たのはミイラだったのか? と頭の中でグルグル考える。
しばらくして、少しだけ冷静さを取り戻した運転手は、タクシーを降りて前方を確認しに行く。
周囲をグルグルと何度も回って見回した後、運転手は戻って来て男に、なにもなかった、と伝えた。
そして、運転手は続けて、確かにグルグル巻きのミイラのようなものが落ちて来たんだ、とうわ言のように言った。
それからこの辺りでは深夜にミイラが降ってくる、そんな噂が囁かれるようになった。
おとしもの【完】




