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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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きぐるみ

 男は自分でも馬鹿なことだと思いつつもその考えを止められなかった。

 それはどんな考えかって?


 きぐるみの妄想だ。


 今、男は深夜に独り台所に立ち、夜食を作っている。

 鍋に湯を沸かし袋麺を用意し、コンロの前に立っている。


 ちょっとした待ち時間。

 そこで男ふと奇妙な考えに囚われた。


 このちょっとした冷蔵庫の死角にきぐるみを着た何者かがいるのではないかと。


 馬鹿馬鹿しい妄想だ。

 ただ、それでも一度妄想してしまうと、その妄想に囚われてしまう。

 なぜきぐるみなのか、それは男にも分からない。

 そう思いついてしまったからとしか言えない。

 男が特にきぐるみが怖いというわけでもない。

 直近できぐるみを見たわけでもない。

 なのに、なぜかきぐるみを着た何者かが、自分の死角に隠れているのではないか、そんな妄想に囚われてしまった。


 もちろん、男も本当にきぐるみがいるとは考えていない。


 ただ、もしかしたら、いるんじゃないか?

 そんな妄想に囚われているだけだ。

 深夜の台所という少し不気味な場所が、男をそうさせたのかもしれない。

 台所以外明かりがついていなく他の部屋はくらい。

 そこそこ大きな古い家だ。

 独りでいるとどうも不安になるのだ。

 台所周りの部屋も電気をつけて回ろうか、そんなことも考えたが、電気をつけた後、消して回るのも面倒だとすぐに冷静になる。


 後から思えば、既にこの時から精神が少しおかしかったのかもしれない。

 そもそも、きぐるみが隠れているなんて発想自体が馬鹿馬鹿しい。


 そんなことを考えつつ、男は水をいれ火にかけた鍋の前に立っている。

 鍋の中の水が泡立ち始める。


 もう麺を入れてもいいか、と袋麺を開け麺を鍋に入れる。

 麺が茹で上がるまでまた少し待ち時間ができる。


 そんな時だ、玄関のほうでガタンと物が落ちたような物音がする。

 男はビクッとして、きぐるみか? などと馬鹿なことを思いつく。

 とはいえ泥棒かもしれない。

 確認しないわけにはいかない。

 電気をつけつつ、玄関に向かう。

 特に玄関には何も異常はない。

 なにか落ちた音がしたと思ったが、なにかが落ちたような形跡もない。

 ふと、窓に目をやる。

 雨戸もない小さな格子のついた窓だ。


 そこに男を見ている大きな顔があった。

 きぐるみのような大きな顔だ。

 ただきぐるみではない。人間の、人間の顔を大きく伸ばした、そんな顔が窓から覗いていた。

 男が驚いて、ヒィッと声を上げると、そのきぐるみのような大きな顔は何事もなかったかのように、窓から覗くのをやめ去っていった。

 男は、すぐに台所に戻り、鍋の火を消し、作りかけのラーメンをそのままにして、自分の部屋へと逃げ帰り布団をかぶって朝まで震えた。


 あれが何だったのかは何もわからない。





きぐるみ【完】

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