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なにかきこえる

 数時間かけて田舎に来た。

 父も母も、祖父も祖母も出かけている。

 大きな家に僕は一人だ。

 村上和也はどこにでもいる小学生だ。

 今は夏休みで父方の田舎へ遊びに来ている。

 ただ和也からすると、ここには何もない。

 何もすることがない。

 時刻は昼下がり、二時くらいだろうか。

 大きな、広く古い家に和也は一人でいた。

 皆、買い物へと出かけていった。

 和也はめんどくさい、と家に独り残った。

 これはただそれだけの話だ。


 テレビを見てもつまらない。そもそもチャンネルが少ない。

 スマホもゲーム機も田舎にいる間は禁止されている。

 この大きな広い家で和也はすることがなかった。


 ただ畳の部屋で手足を広げて寝っ転がることは新鮮で気持ちよく楽しかった。

 両手両足を伸ばしても、壁に当たる気配すらない。

 自分の家では決してできないことだ。

 外はセミがうるさいほど鳴いている。

 日差しも強い。

 一度熱中症と言うものを体験してからか、和也はあまり外に出る気がしない。

 だから、家から出ないことを条件に、一人留守番することが許された。

 家の中は少し薄暗い。

 電気をつけていないせいだが、和也には外が明るすぎるせいに思えた。

 薄暗く広い家の中の畳の上に寝っ転がり、扇風機だけが動いている。

 和也はボーとしながら、畳の上に寝ころんでいた。

 

 ふと和也が気が付くと、セミの鳴き声が聞こえなくなっていた。

 それに部屋の中が妙に薄暗い。

 先ほどよりも確かに薄暗い。太陽が雲で隠れたのか、とにかく薄暗くなっていた。

 扇風機の回る音だけが広い古い室内に響く。

 和也が妙な気配に気づいた時、なにか聞こえて来た。


 それが何なのか和也にはうまく聞き取れない。

 ただ奇妙なのは、右耳だけに何かが聞こえてくるのだ。

 それは人の喋り声に聞こえるのだが、それを上手く聞き取ることはできない。

 遠くでなにかごちゃごちゃと話している、隣の部屋の壁向こうのテレビがつけっぱなし、そんな感じだ。

 誰かがなにかを絶え間なく喋っているのはわかるが、その言葉自体を聞き取れない。

 和也はなんだろうと、その言葉を聞き取ろうと耳を集中させる。

 すると、今度は左耳が、キィーーーーンと言う甲高い音が鳴り始める。

 その間も右耳からは聞き取れない言葉が続けて聞こえてくる。

 いや、徐々に大きくなるように、それでいてやはり聞き取れない言葉が聞こえてくる。

 流石におかしいと和也が身を起こそうとしたが、体が動かない。

 正確には部分的に動かない。

 右手と左手は肘から先は普通に動く。

 足も膝から先は動く。

 でも、手足が肘と膝から上が、まるで何者かに押さえつけられているかのように動かない。

 首はある程度動く。

 和也はもがくように体を動かすが、体が自由になることはない。

 そして、和也は気が付く。

 右耳、なにか言葉が聞こえてくる方、家の薄暗い、外の光が届かない奥から、何かが近づいてくるのを。

 何かが見えたわけではない。

 ただ、何かが近づいてくるのだけは和也にもわかった。

 それにつれて左耳から聞こえる甲高い音も大きくなる。

 右耳の聞き取れない言葉も徐々に大きくなる。


 和也が恐怖で声を上げようとするが、上手く声に出ない。

 掠れた空気が喉から出ていくだけだ。

 和也が泣きそうになったところで、部屋が明るくなる。

 雲に隠されていた太陽が現れたのか、外の強い日差しが差し込んでくる。


 そうすると、和也は自由に動けるようになっていて、耳鳴りもやみ、聞こえるのはセミの鳴き声だけとなっていた。


 次の日から和也も買い物についていくようになった。

 見知らぬ土地での買い物はそれなりに新鮮で楽しくはあった。


 ただそれだけの話だ。



なにかきこえる【完】

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