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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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くもりがらす

 少女は田舎に住んでいた。

 田舎だからというわけではないが家自体も家を囲う庭も広い。

 門にもチャイムはあるが庭が広いので、玄関先まで勝手に入って来て玄関のチャイムを鳴らす客も多い。

 玄関の扉は引き戸で、曇りガラスが嵌められている戸だ。

 防犯性は余り良くはないが、そもそもほとんど鍵をかけない。

 知り合いなら気にせずそのまま入ってくる、そんな土地柄だ。

 そんな場所に少女は住んでいる。


 ある日、夕方くらいの、まだ日が沈み切れないくらいの時間、庭先の門のほうでなく玄関のチャイムが鳴る。


 少女は宅急便でも着たのかと玄関まで行く。

 そこで曇りガラス越しに見たのは人型をした黒い影だった。

 細く背が高い。手足が異様に長い。

 ゆらゆらと蝋燭の炎のように揺れる黒い人影だった。

 少女はそれを見た瞬間、良くないものだとすぐに分かった。

 それを見た瞬間に全身が鳥肌になり背筋にぞくぞくとした寒気が走ったからだ。

 戸の鍵をかけたかったが少女は近づくのも怖かった。


 その人影が少女に気づく。

 戸をドンドンと揺らし「アケテ、アケテ、イレテ、イレテ」と片言で、男女とも判断のつかない子供のような声で語り掛けて来た。

 少女はその声を聴いた途端動けなくなる。

 その場から今すぐにでも逃げ出したいのに、身動き一つできなくなる。

 曇りガラスの向こう側には、ゆらゆらと揺れる黒い人影が今も少女を見つめる様に佇んでいる。

 少女は何もできない。

 声を出すことすらできない。

 その黒い人影は「アケテ、アケテ、イレテ、イレテ」という言葉を繰り返している。

 まるで鳴き声のように繰り返している。

 それが言葉だとは知らないように、ただその言葉を真似ているだけなように、オウムが人の言葉を真似ているだけのような、そんな感じがするのだ。

 感情が一欠けらも籠ってないそんな声なのだ。

 

 そっと少女の肩に手がかけられる。

 びっくりして少女が振り返ると、少女の祖母が立っていた。

 祖母は少女の手を引いて家の奥へと戻った。

 少女は体が動けたことに安心する。

 祖母は家の中の神棚の前に行き祈り始めた。

 そうするとすぐに戸を叩く音が聞こえなくなった。

 少女がこっそりと玄関の方を見ると黒い人影がもう見えなくなっていた。

 少女が祖母にあれはなに? と聞くと、祖母は「山の良くないものだよ」と答えてくれた。

 そして「運がいい、直接見てたら助からなかったよ」と続けた。


 その後、祖母は近くの家々に「あれがまた出た」と電話で何件も知らせていた。

 それから三日の間、少女は外に出るのも許されず学校も休むこととなった。

 あれが結局なんだったのか、少女が知ることはなかった。


 それ以来少女があの人影を見ることはなかったが、曇りガラス越しの客が少し苦手になったと言う。




 

くもりがらす【完】

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