わらうしゃしん
義母が急に訪ねてきた。
急に来られては困ると思いつつも、旦那のアルバムを持ってきてくれたので、女も機嫌をよくする。
義母に茶菓子とお茶を出し、一緒に旦那の子供の頃の様子を見る。
写真一つ一つに対して義母があれやこれやと当時の夫のことを説明してくれるので、女としても楽しい。
夫の実家を片づけていて出てきたもので、折角だからと持ってきたそうだ。
自分の夫の子供の頃の写真は見ていて何かと楽しい、そう思っていると女は違和感を感じ始め、すぐにその正体に気づく。
アルバムの中の写真、その一定枚数の中に笑っている男がいるのだ。
夫が赤ちゃんの時から大学を卒業し就職して実家を出ていくまで、アルバムに収められている写真の中に、まるで歳を取っていないような男が、笑顔で写っているのだ。
女は義母に、この笑っている方は? と聞くと、義母は首を傾げる。
そして、誰かしらね、こっちにも写っている、と義母が生まれたばかりの夫を抱きかかえている写真を見せる。
確かに、その背景の少し奥に笑っている男が写っている。
男は必ず灰色のスーツを着ていて、身だしなみがよく黒ブチの眼鏡をかけている。
年齢としては三十代から四十代くらいだろうか。
髪型は全部七三分けだ。
あと、少しガタイがいい。
特徴らしい特徴はないのだが、写り込んでいる写真はどれも笑顔だ。
張り付いたような同じ笑顔なのだ。
女は気味悪いと思いつつ、アルバムを見る。
十枚に一枚くらいの割合でその男が写り込んでいる。
その後、義母はアルバムを置いて帰っていった。
夜になり夫が帰ってきて懐かしそうにアルバムをめくる。
女も一緒にアルバムを見る。
夫は懐かしい、恥ずかしい、などいろいろ言っていたが、女がこの笑っている男は誰? と聞くと、夫は知っているのか答える。
ムラタさんだよ、と。
女は義母は知らなかったみたいだけど、と聞き返す。
そうすると夫は少し不思議そうな顔をする。
実家にもよく来てたのに知らないわけがないよ、と夫が言う。
そして、夫は続ける。
おまえも知ってるはずだろ? この間こっちの家にも来ていたじゃないか、と。
女はその言葉に驚く。
こんな人は知らない、と女が言うと、夫は冗談と思ったのか笑って見せる。
だが、女が本気で怖がっていると、男の表情も変わっていく。
この間の日曜日遊びに来てくれていたじゃないか、と、夫が呆気に取られてそう言った。
日曜日にお客など来た覚えは女にはない。
女が本気で知らない、というと、夫はパソコンを起動してデジカメの画像を女に見せ始める。
それらの画像、夫と女の夫婦の写真に混ざってあの笑っている男がさも当然のように写り込んでいる。
写真自体はどれも覚えのあるものだ。
だが、こんな笑った顔の男と一緒だった記憶は女にはない。
ないのだ。
それからも夫の写真には、ムラタという笑っている男が写り込む。
その人物は夫以外、誰も知らないという。
気味は悪いが何か恐ろしいことが起きたわけでもない。
だから、女もそのムラタという人物のことを気に留めなくなった。
今日も夫が言うにはムラタは遊びに来ているというのだ。
だが、やはりその日も家には夫と女しか、人間はいない。
わらうしゃしん【完】




