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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あけび

 家の近くの遊歩道の脇にアケビがなっている場所がある。

 遊歩道といってもほぼ山だ。

 山のふもとに沿って道が続いているだけの道だ。


 男はそんな遊歩道のその場所を歩き、アケビがなっているのを見つける。

 子供の頃はよくこの道でアケビを取って食べていたのを思い出す。

 それほどうまいものではなかったが、男が子供の頃は近くにスーパーもコンビニもなかった。

 駄菓子屋は辛うじてあったが自転車で片道一時間はかかるような田舎だった。


 だから、というわけでもないが、野生の果実、アケビやビワなんかが子供の頃はおやつ代わりだった。


 そんな山の恵みももうすぐなくなるという。

 山の所有者が亡くなり、売りに出されたという話だ。

 近いうちにこの山も開発され、何か別のものへと姿を変えることだろう。


 もしかしたら、今なっているアケビが最後かもしれない。

 男はそう思うと、思い出の味をもう一度だけでも味わいたくなる。

 ちょうど取りやすい位置にアケビがなっている。

 男が子供の頃ならすぐにでも取られてしまうような位置だ。

 今はもう誰も採る者もいない。


 男は少しだけ藪の中に入りアケビを手に取る。

 既に実が割れて内部が露出している。

 内部にはゼリー状で黒い種を囲う果肉が見えている。

 当然、内部には虫などが入り込んでいる。


 子供の頃とはいえ、よくこんなもの食べられたよな、と男は思う。

 そこでまだ開いてないアケビがあったので、それを手に取って、一つだけもぎ取り、藪の外へと出て道へと戻る。


 まだ開いてないアケビにも、うっすらと線が入っており、ここから割れて実が露出するのだとわかる。


 男が家に帰って妻と食べてみよう、妻は嫌がるかもしれないが、そんなことを考えていた時だ。

 男の手の中のアケビがもぞもぞと動いた。

 虫でもいるのかと思って、男がアケビを見ると、割れ目がゆっくりと開いていく。

 動作としてはゆっくりとだが、植物が、しかももいでしまった実が、男の手の中で開いていくのだ。


 男は何事かと思って、開いていくアケビを観察する。


 ゆっくりとアケビが開くと中から見えてきたのは目だった。

 確かにアケビの内部は白と黒色が多く目玉のように見えなくもないが、それとは完全に違っている。

 大きな白目に一つの瞳。

 それがアケビの中から出て来て、男のほうをジッと見つめるのだ。


 男は、ああ、これは山の神様の物だったのだ、そう理解した。

 すぐに男はそのアケビを元の場所、アケビの木の根本に置き、そのまま急いで酒屋へいき、一本の酒を買ってきてその木にまき、酒瓶ごとその場所に置き、すいません、と拝んで帰ってた。


 翌日男がその場所を見に行くと、酒瓶の酒だけがなくなっていた。

 その代わりに、いくつかアケビが山積みになっていた。


 男はありがたくそのアケビを持って帰り、それからは月に一度くらいその場所へ酒を届けることにした。

 酒は毎回空になっているので、山の神様も気に入ってくれているようだ。


 ついでに、売られたはずの山の開発はなぜか中止となっていた。

 もうしばらく、この山は山のままでいてくれるはずだ。


 ただ、男は知らない話だが、山の開発が中止になったのにはちゃんと理由がある。

 工事現場で凄惨な事故が、例えば、事故で頭部が割れそこから目玉が覗いていたような、まるでアケビが割れ中から目玉が覗いていたような、そんな事故が多発したせいだ。

 もしかしたら、男が捧げた酒で力を取り戻した山の神の仕業、だったのかもしれない。





あけび【完】

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