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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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まつのき

 とある田舎の庭に松の木が生えている。

 男が子供のころから、いや、男が生まれる前から生えている、そんな松の木だ。

 もうかなりの老木なのか、最近はあまり元気がない。

 あまり葉をつけず、松ぼっくりもそれほど実ることもない。

 本当にもう老木なのだろう。


 松の木ならではの造形、蛇が鎌首をもたげるように曲がった、そんな形の松の木だ。

 形だけ見るならば少し不気味な木だ。


 ただ蛇と関連があるのは形だけではない。

 この松には蛇がよく登るのが目撃されている。

 なので、蛇松だなんてまことしやかに呼ばれていたりする。

 それに老木となり少し角の取れた木の肌がどこか蛇の鱗を思わせるような、そんな木の肌もしている。


 だからだろうか、男は少しその松の木が怖かったのだ。


 家の出窓からちょうどその松の木が見える。

 小雨に打たれる松の木はやはりどこか怪しい雰囲気を放っているように思える。

 

 そして、今もその松の木に蛇が絡みつき、登って行っている。

 あの松には蛇を惹きつける何かがあるのかもしれない。

 男はそんなことを考え、窓から松の木とそれを上る蛇を観察していた。


 松の木なのだから針葉樹だ。

 餌になるような鳥も滅多に、その木に止まるようなこともないのだが、それでも蛇はその松に登るのだ。


 なんで蛇はあの松が好きなんだろう、そう男が考えていた時だ。

 松の木を上っていた蛇が急に暴れだした。

 その身をくねらせ、じたばたと暴れている。


 何が起きた、と男が目を見張っていると、蛇は力なくだらんと、松から垂れ下がった。

 ただ、頭部は何かに抑えられているのか、松の木に引っかかっているのか、蛇自体が松の木から落ちることはない。

 それにちょうど窓からは陰になっていて蛇の頭部がどうなっているのかわからない。

 まるで蛇が首つりでもしたかのような、そんな様に男には見えた。


 しばらく男が唖然としていると、蛇が何かに巻き上げられるかのように、少しずつ松の木の陰に消えていった。


 何が起きているんだ、と思って男は庭に飛び出す。

 傘を差し、小雨の中、松の木のところへ行く。


 松の木の下には赤い血がしたたり落ちている。

 窓から見えなかった松の木の裏へと回ると、その枝には瘤のようなものがあり、そこに小さなうろができていた。

 恐らく蛇はこのうろの中に引き込まれていったのだ。

 その証拠に、小雨に流されながらうろから、血が滴っている。


 この松は蛇松ではない。

 蛇喰い松なのだ。

 枯れそうな老木は、蛇を喰らうことで生きながらえているのではないか、男にはそう思えた。


 蛇を食べているうちはまだいい。

 蛇以外の物を食べ始めでもしたら……

 男はそんな恐怖を漠然と抱いた。


 男は松を切ってしまおうか、そんなことを考えるが、そうしたら祟りでも起きるのではないか、男は松の木をさらに恐れた。


 結局男は松の木を切ることはなかった。

 男が年老いて死んだ後も、松の木はひっそりと生き続けた。







まつのき【完】

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