かいもの
女はスーパーへ買い物しに来ていた。
スーパーと言っても四階建てでかなり大きい、今は閉園してしまったが、屋上に小さな遊園地的な物まであったスーパーだ。
その歴史は長く、言ってしまえばかなり古い建物だ。
昭和の気配が未だに残る入り口から、女はスーパーに入る。
中は何度目かのリホームがされていて、かなり綺麗だ。
だが、女はスーパーに入ったときに、妙な違和感を感じていた。
生鮮品売り場で色々と食料を買い込んでいた時に気づく。
他の人がいないのだ。
違和感の正体はそれだ。
他の客どころか、定員すらいない。
レジにすら人はいない。
セルフレジがあるので会計は問題ない。
だが、ここまで人が居ないのは妙だ。
定休日というわけでもないし、店内は明るく電気がついている。
女は不思議に思いながらも買い物を続ける。
そうしていると棚の向こうから話し声が聞こえて来る。
女は、なんだ偶然、人がいなかっただけか、と思い買い物を続ける。
そして、棚の向こうへと、話し声が聞こえてきた場所へ行くのだが、誰もいない。
ついさっきまで、何か話していた声が聞こえていたのだが、今は誰もいない。
女も流石に焦り出す。
そうするとまた別の方から、ヒソヒソと何かを話す声が聞こえて来る。
失礼と思いながらも、女は聞き耳を立てる。
話されている言葉は日本語ではないのか、何を言っているかまるで聞き取れない。
その事だけはわかった。
もちろん、話し声の方へ行っても誰もいない。
女は気味が悪くなり、セルフレジで会計を済ませ、スーパーから急いで出ていく。
そして家に帰り、買ってきた物を見る。
すべて、腐っていた。
何もかもが腐っていた。
腐らないものも酷く劣化していた。
女はレシートと腐った食材を持ち、もう一度スーパーへ行く。
そうすると今度は普通に店員もいる。
女が店員にレシートを突き付け、文句を言う。
腐った食材を見て店員も驚くが、レシートを確認して首を捻る。
そのレシートは五十年も前の物だ。
このスーパーの建物ができた頃の物だ。
ただレシート自体は新しいし、このスーパーの物だ。
店員は困り果てたが、流石にこれでは返金は出来ないと、五十年前の日付のレシートを女に返す。
女も店員に言われた通りレシートを確認すると、たしかに五十年前の日付だった。
女は納得できないまでも引き下がるしかなかった。
かいもの【完】