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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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かいだん

 親戚の家には古い家で、玄関を入ってすぐに急な階段がある。

 細く急で登りにくいしもちろん降りずらい、そんな階段がある。

 昼でも暗く木製の、古い、急な、階段がある。


 階段の上から下を見下ろすと、吸い込まれそうなほど急な階段だ。

 古い家だからだろうか、踊り場もない。

 まっすぐで、急な、一度足を踏み外したら、そのまま下まで転げ落ちてしまいそうな階段だ。


 少年は親戚の家に来ていた。

 居間では母親と親戚が話をしている。

 幼い少年は暇になり、親戚の家を探検することにした。

 なんとか急な階段を登り切り、下を見る。

 

 怖い。


 と言う感情が沸き上がってくる。

 まるで崖の上に立つような、そんな感覚だ。


 二階は昼でも薄暗かった。

 廊下には電気もついておらず窓もあまりない。

 そこを少年はなぜか四つん這いになって進む。

 もしかしたら、あの急な階段が怖かったのかもしれない。

 とにかく四つん這いになって少年は二階の廊下を進んだ。

 まず一番手前の部屋。

 扉を開けると物置のような部屋だった。

 本や雑貨が所狭しと置かれている。

 ただ少年の気を引くものはなかった。

 さらに進み奥の部屋を少年は開ける。

 恐らく親戚の子、その寝室だ。

 女性らしく綺麗に片づけられ本棚には少女漫画などが置かれている。

 やはり少年の興味を引くものはなかった。

 更に少年は進み奥の扉を開ける。

 親戚夫婦の寝室だ。

 大きなテレビと大きなベッドが置かれた部屋だ。

 レコードなんかもいくつか飾られている、そんな部屋だ。

 だが、やはり少年の気を引くものはない。

 最後に二階の廊下の突き当たりの扉を開ける。

 そこはトイレだ。

 しかも、和式のトレイだ。

 小さな手洗い場がついているような、変わったトイレだ。

 

 少年はトイレの窓から外を覗く。

 まだ外は明るいが、日が少し傾き始めている時間だった。

 少年は窓から外を見る。

 ちょうど親戚の家の正面が見え、長い大きな降り坂になっている。

 この家に来るのにこの坂を一生懸命登ったものだ。

 しばらく少年がその景色を眺めていると奇妙なものが坂を登って来た。


 黒い体に赤い仮面のようなものをつけている。

 獅子舞。

 それは大体体の部分は緑色の布を思い浮かべるかもしれないが、それの黒い布といった感じの何かだ。

 赤い怒ったような顔に白い髪の毛、そして黒い布のような胴体。

 それが首をぐりんぐりんと回しながら、坂を登って来ていた。

 少年はそれを見ていた。何だろうと思ってそれを見ていた。

 そのなんだかよくわからないものの動きが止まる。

 それは少年と目が合ったからだ。

 その獅子舞のような何かは少年に向かい指を指す。

 そして、何かしゃべるかのように口を開けたり閉じたりした。

 

 次の瞬間ものすごい勢いでそれが少年めがけて走り出した。

 坂を一気に駆け上がり、親戚の家の生垣を一っ飛びにして、家の壁を難なく登り、小さなトイレの窓に顔を突っ込みこういった。

「みたな」

 と。

 少年は逃げ出した。

 廊下を走りぬけ、急な階段を後ろ向けに降り始める。

 急いでおりたいが、この階段は怖い。

 だから、後ろ向きになり階段にしがみ付きながら一段一段降りていくしか少年にはできない。

 そうして階段を降りていくと、階段の上にさっきの獅子舞のような存在がやって来ていた。

 少年は捕まる、と思ったが、その存在は階段を降りてこない。

 階段の前で立ち止まり、じっと少年を見ている。

 それが手を伸ばすが、少年には届かない。

 しばらくすると、それは諦めたように廊下の闇に消えていった。

 その後、少年は親戚の家から帰るまで大人しく母親の隣に居たという。


 あれが何だったのか少年にはわからないが、あれが階段を降りれなかったことだけは確かだ。




かいだん【完】

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