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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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せびろ

 祖父が死んだ。

 祖父は結構な資産家だったので家に多くの人が来た。

 少年もその一人には違いない。

 少年は今まで見たこともない黒い服を着た大人たちの相手に疲れ、祖父の書斎で独り祖父の死を悼んでいた。

 とはいえ、幼い少年にできるのは、祖父との思いでを思い出し、ぐずぐずと泣くことだけだが。


 遠くの部屋で笑い声が聞こえる。

 なぜ大人たちは祖父が死んだというのに、あんなに笑っているのだろう、と少年は思う。


 酒を飲み、豪勢な食事をし、祖父の死を祝っているように少年は思えてしまった。

 だから、祖父の書斎で明かりもつけずに独りで泣いていた。


 背広が一着だけ、この部屋に吊るされていた。

 少年は優しかった祖父のことを思い出して、その背広を見る。

 そうすると、その背広がかすかに揺れる。

 そして、次に両腕が、背広の両腕だけが跳ね上がった。


 少年はそれを不思議そうに見る。

 そうすると、背広の袖から、白い手がゆっくりと出てきた。


 少年は祖父が戻って来てくれたと思って、その背広に近づく。

 が、すぐにわかる。

 祖父の手ではない。

 男の手ではあったが、祖父のようにしわくちゃの手ではなく、もっと若く荒れた手だった。

 なにより祖父の右手には大きな黒子があるのだが、それがない。

 その手は祖父の手ではない。

 袖口からでた手は少年を求めるように、あがく様に、宙を掴むように、無茶苦茶に動く。

 少年は慌てて叫ぶ。


 そうするとすぐに大人たちが書斎にやってくる。

 大人たちが少年に話を聞く。

 ほとんどの大人たちは少年の話を聞かなかったが、一番最初にやってきた若い男は確かにその背広が激しく揺れているのは見た、と言った。

 そして、祖母は何でこんな場所にこの背広が、と不思議そうに首を捻った。

 祖母はその背広をしまうために持って行った。

 大人たちの宴会は夜遅くまで続く。


 少年が客用の寝室に行くと、またあの背広が部屋にかけられている。

 部屋に入ってすぐに見つけたので、じっとその背広を見る。

 生前、祖父がこの背広を着たいたところを少年は見たことがない。

 少年が部屋の入り口でじっとその背広を見ていると、やはり背広が動き出す。

 袖が跳ね上がり、その後、袖に手を通すように、白い手が袖口からゆっくりと出てくる。

 今度は、暴れるのではなく、その手は少年を手招きする。


 少年がそれに近寄る。

 もしかしたら、祖父なのかもしれない、そんな気持ちを少年が捨てきれなかったからだ。

 少年がその背広に近づき、もうすぐその手が届こうとした瞬間、背広が何かに勢いよく叩かれるように飛んだ。

 そのまま床に落ちる。

 その力はすさまじく木製の立派な衣紋掛けが折れるほどだ。


 袖から生えていた手はもうない。


 結構な音がしたので、大人たちが数人様子を見に来る。

 そして、祖母はしまったはずの背広がここにあることに驚く。

 少年は見たまんまの話をする。


 流石に今度は大人たちも、半信半疑ではあるが信じてくれて、祖父が悪いなにかが憑いた物から少年を助けてくれたんじゃないか、とそう言った。

 少年もそう思うことにした。


 その後、祖母の手により、その壊れた衣紋掛けだけが庭で焼かれたという。




せびろ【完】

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