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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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うるうび

 閏日。

 四年に一度訪れる二月二十九日。


 その日もそんな日だった。

 正確には二月二十八日が終わり、二十九日になって少ししたくらい時刻だ。

 男は連日の残業でフラフラしながら、地下鉄の駅同士をつなぐ地下通路を早歩きで歩いていた。

 次の電車が最終電車なことを男は知っている。

 だから速足で急がねばならない。


 ぼぉっと何も考えれないほど疲弊した脳みそで、ずっと寝ていたい、休みたい、そう願いながら、地下通路を歩く。


 普段ならそこそこ人がいる駅なのだが、今日は珍しく男一人だ。

 白く明るい蛍光灯の光と真新しい白いタイルが夜を感じさせない。

 そんな地下通路を男は歩く。


 ふと眩暈がする。

 疲れすぎか、男は思う。望みは薄いが、帰りの電車で座れればいいな、そんなことを考える。


 明日休もう、や、病院へ行こう、そんなことは思いもよらない。

 明日もやることだらけで休んでいる暇などはないのだからと。


 眩暈はすぐに収まる。

 その代わりに視界が変になる。

 なんといえばいいのか、一番適切なのは魚眼レンズで見ているように視界が歪んでいる。

 そんな視界になり、男も流石に歩くのをやめる。

 

 男は足を止めた後、周りを見渡す。

 視界は歪んだままだ。


 一度目を強く閉じてから開ける。


 視界は歪んだままだ。


 目をこすろうかと思ったが、もし魚のように目が飛び出ていたら、そう思うと男は目をこすることはできなかった。

 上を向いて目を閉じ、少しその場に男は立ち尽くす。


 再び目を開ける。


 なにか、一気に血が脳内に廻った感じがして、視界が黒くなる。

 そして、男は意識を失った。


 男が目を覚ました時、そこは病院だった。

 近くの時計を見る。

 デジタル時計で日時も一緒に表示されている。

 日付は二月二十九日と表示されている。


 男は妙に澄み切った思考で、ああ、ついに倒れちまったか、と、そう思う。

 会社に連絡しなければ、と男はそう思うが近くに自分のスマホもない。


 病院のベッドで半身を起こしつつ、どうすべきか少し迷っていると、看護師が男を見て驚いたように出ていった。


 そうすると、すぐに妻が病室に駆け込んできて涙を流しながら男に抱き着いて来た。

 男は大げさだな、そんなことを考えて、妻の顔を見る。

 なんだか大分ふけている。

 一晩でそんなに心配してくれたのか、と男は声を出そうとするが、まともに声が出ない。


 その後、男は知ることとなる。

 自分は四年間も意識を失い生死を彷徨っていたのだと。





うるうび【完】

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