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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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でっさんにんぎょう

 デッサン人形。

 絵やイラストなどを描くときに使われるポーズのチェックをするための人形だ。

 それ故に普通の人形などと比べて可動部が多い。

 また、ポーズをそのままに固定できるのも特徴だ。


 まあ、そんなデッサン人形の説明はどうでもいい。

 それはデッサン人形に外見が似ているだけで、デッサン人形ではないのだから。


 男が仕事帰りに、いや、仕事をするためにか。地下道とも地下街ともいえるような場所をを通っていた時だ。

 かなり昔に作られた地下道で地下にありながらにして雑居ビルのような、そんな雰囲気を持つ通路となっている場所をよく見ながら歩く。

 通路の両側には小さい店舗もがいくつも並んでいるような、そんな地下通路だ。


 ただ、もう遅い時間と言うこともあり、どの店舗ももうシャッターがぴっちりと閉められている。

 そのせいもあって少し退廃的な雰囲気もある地下通路だ。


 男はその地下通路を颯爽と風を切りように早歩きで歩く。

 それでいて、周りをよく見ている。

 だから、地下通路にある大きなアーチ状の看板のところで足を止める。


 なにかが上から、地下通路の天井から、ゆっくりと降りてきていたのが目に入ったからだ。


 男は足を止めて、それを見る。

 かなり遠い位置なのだが、それは蜘蛛に見えた。

 だが、大きすぎる。

 蜘蛛にしては大きすぎるのだ。

 それは人と同じくらいの大きさで手足が複雑に絡まり合った塊だった。


 それが地下通路の天井からゆっくりと降りてきていたのだ。

 少し非現実的な光景だったが、男は何かの催し物か、と、それを見る。

 これでは男の仕事は今日は中止せざるえないからだ。


 だが、時間ももう遅い時間のはずだ。

 催し物というよりは、それの準備か練習か、と男はそう思って、その蜘蛛のような何かを足を止めて見続けていた。


 それをよくよく見れば、木製の人形のようだった。

 よく漫画家などの家で見るような、デッサン人形。

 それによく似ていた。


 ただ大きさは人間大だ。


 なんの催し物だと、男が思っていると、その複雑に絡まっていた人形が、地上まで降り、その絡まりを解くように動き出す。

 それと同時に天井から、白く輝く糸のようなものが見える。


 あの糸で人形を操っている、だから、天井から人形が降りて来たように見えたのだろう、と、男は思った。


 人形は少しずつ絡まりを解き、人の形へと戻っていく。

 だが、妙だ。


 地下の天井から糸が見えはするが、それを操る様な器具は一切見えない。

 人形はかなり複雑な動きをしているのにもかかわらずだ。

 なんなら、その糸も天井から直接出ているように見える。


 そうこうしていると、その人形は人のように立ち上がった。

 人間大だと男は思っていたが、男よりも一回りは大きい。


 それが、ゆらゆらと揺られながら地下通路で立ち上がったのだ。


 その人形が、やはり操り人形のような動きで、男の方へ向かい始めた。

 そして、その人形はアーチ状の看板の下を悠々と抜けて来たのだ。


 男はそこでやっとそれが尋常な物ではない、そう気づいて、その場から走り出す。

 そうするとその人形も男を追うように、手足を糸に操られながら走り出した。

 

 男が何とか地下街から逃げ出し、地上に出て、今さっき走り上がって来た階段の方を振り向く。

 そすると、人形が、デッサン人形のような、人よりよりも大きい人形が、階段の手前で、男を見るように立ち止まっていた。


 どうもその人形はこの地下から出れないようだ。

 男が階段の上で一息つくと、その人形は地下街の奥底へと引き返していった。


 男はそれ以来、その地下街に近づかなくなった。

 ついでに家業だった泥棒もやめた。




でっさんにんぎょう【完】

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