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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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とうふ

 白く柔らかい、大豆から作られる食べ物だ。

 昔からある食べ物で、様々な食べられ方をする食材だ。


 男は豆腐を豆腐屋で買ってきた。

 今時、豆腐屋も珍しい。


 男はその日、早く会社から帰れた。

 まだ豆腐屋が開いていたのだ。

 こんな時代に豆腐屋とは珍しい、そう思いつつもニ十四時間やっているスーパーやコンビニ以外、平日は早々買いにこれる機会は少ない。


 だから、男は豆腐を買った。

 滑らかな絹ごし豆腐だ。


 非常に滑らかでうまそうに思える。

 絹ごしなら、そのまま食べる方が良いのだが、男は湯豆腐にしようと、そう思った。

 理由はその日、寒かったからだ。


 それなら木綿豆腐の方が良かったのだろうが、滑らかな絹ごし豆腐に目を奪われ、そっちをつい買ってしまった。


 男は、まあ、どうせ自分だけだし構わないだろう、と、そう思い、豆腐を茹でる準備をする。

 少し大きめの鍋に湯を張り、昆布出だしを取る。


 湯が湧いたら、豆腐を適度な大きさに切って入れる。

 薬味を用意して、豆腐が茹で上がるのを待つ。


 茹で上がったら鍋ごとテーブルに乗せて、それを頂く。

 鍋から小皿に取り上げて、薬味を乗せ、醤油とめんつゆを混ぜた特製つゆをかける。


 実にうまそうだ。


 つるつるとした絹ごし豆腐から、ホカホカと白い湯気が上がる。

 青ネギの上から、かかったつゆからいい香りが漂う。

 

 箸で適度に割り、それを口に運ぶ。


 熱い。

 だが、それが良い。

 男は湯豆腐を楽しむ。


 ふと、男が箸で割った湯豆腐を見ると、断面に黒い物が見える。


 虫の類か? と男がよく見ようとすると、黒いそれは豆腐の中へと逃げ込んでいった。

 黒い紐のような、そんな物だ。

 それがうねうねと動き豆腐の中に潜り込んでいったのだ。


 だが、これは湯豆腐だ。

 火を通した豆腐だ。

 虫だったとして、生きているわけがない。


 男はその湯豆腐を箸で細切れにして、さっきの黒い紐のような物を探す。


 だが、それは出てこない。

 いくら豆腐を細切れにしても、それはもうどこにもないのだ。


 男は見間違いだったか?

 そう思い、新しい小皿を取り出し、そちらに新しい湯豆腐をテーブルに置いた鍋から取り分ける。


 まだ茹でた鍋だ。冷えてもいない。

 虫がいるはずはない。

 ましてや動いているわけがないし、熱い豆腐の中に逃げ込むわけもない。


 ただの見間違いだと、男はそう思うことにした。


 少し気分が悪かったから、新しい小皿を使っただけだ。

 新しい小皿の上に、薬味を乗せようとする。


 男は念のためと、その薬味もよく調べる。

 ただの青ネギだ。

 虫が居たりもしない。


 念入りに調べた後、それを豆腐の上に乗せ、特製つゆをかける。

 そして、豆腐に箸を入れる。


 その瞬間だ。

 黒い紐のような物が豆腐から出てきて、そして、小皿から剥いだし、ものすごい勢いでどこかへ逃げていった。


 これは見間違いじゃない。


 そう思った男は鍋の中の豆腐を調べる。

 もうそれ以上、黒い紐のような物は見つからなかった。


 男は気分が悪くなり、その日は酒を飲んで寝た。

 もったいなかったが豆腐をもう食べるつもりはなかった。

 次の日、男が豆腐屋の前を通り驚く。


 そこにあったのは、もうかなり昔に閉店した豆腐屋だったのだ。

 普段男が気にしてなかっただけで、豆腐屋などとうの昔になかったのだ。


 その日、男が家に帰ると、まだ残っている豆腐は干からびたようなカビだらけの真っ黒なものに変わっていた。

 一口とはいえ、それを食べてしまった男は気分が悪くなったが、それで体調を崩すようなこともなかった。


 ただそれだけの話だ。






とうふ【完】

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