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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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なきごえ

 近所から子供の泣き声がする。

 わんわんと泣く子供の声だ。

 赤ん坊ではなく、少し育ったくらい、三、四歳くらいの泣き声のように女には思えた。


 それが余りにも長く続くので女は家の周りを見て回る。

 何か困っているのではないかと、そう思ってだ。

 だが、家の前の通りにも、庭にも、近所の庭にもそのような子供はいない。


 またどういう訳か、泣いている子供が動いているのか、泣き声の方向をどうにも特定できない。

 泣き声の方向へと向かえば、いつの間にやらまた別の方向から、鳴き声が聞こえてきている。


 女が諦めて、家に帰りしばらくすると次第にその泣き声も消えていった。


 そんなことが度々ある。

 毎日ではない。

 けれど、週に一、二度くらいの頻度でそんなことが起こるのだ。


 女は夫に相談し、夫も真剣に聞いてはくれるが解決方法が見つかるわけもない。

 泣いている子供自体を見ているわけではないので、警察に連絡する程でもない。


 そんなある日、二階の窓からなんとなく外を見ていると、道路に泣きながら歩いている女の子を発見する。

 女は、やっと犯人がわかったと思う反面、この辺りで見たことのない子だとそう思った。

 そう思った理由に、その女の子が着ている服が、何というか古いのだ。

 古い、とても古い映画の中でしか、もう見えないような、そんな古い服装なのだ。


 それを見た女は直感で関わらないほうが良い、そう思った。

 けれど、なぜか女は二階から階段を降り、玄関の戸を開けていたのだ。

 まるで誘われるように女は家の前の道路に出る。


 そうすると、その古めかしい服を着た女の子が泣きながら歩いているのが見える。


 けど、その瞬間、女は気づいてしまい、ゾクゾクっとしたものを感じる。

 もう夕方と言ってよい時間で、何もかも、長い影が伸びているのだが、その女の子からは影が伸びていない。

 まるで、その女の子だけ、世界にあとからシールで張り付けたように、周りから浮いて見えるのだ。


 女は茫然とその女の子を見る。


 女の子も女に気づき、泣いているせいか、顔に当てていた手をどける。

 そこには焼きただれた顔があった。

 顔半分、溶けるような酷い火傷だ。


 女が声にもならない悲鳴を上げる。


 その少女はしばらく泣き顔で女を見た後、興味でも失くしたように、わんわんと泣きながら道を歩いて去っていった。

 夕闇を進んでいくのに、一向に闇に溶け込んでいかない女の子の姿を、女は茫然と見ていた。


 それから女は泣き声が聞こえてきても、決して近寄らなくなった。

 夕方の時間は外に出ることさえ、避けるようになった。

 それどころか、泣き声が聞こえると、震え家に篭るようになった。


 泣き声が聞こえる頻度は減ったが、それでも夕方ごろ、わんわんと泣くような、泣き声がどこからともなく聞こえてくるのだ。





なきごえ【完】

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