きがふれる
少女の住んでいる場所は、まあ、田舎だ。
そこに不審者情報が回って来る。
〇〇さんところの、三男が気がふれておかしくなってしまっていて、たまに徘徊していると。
不審者なのに身元が分かっているなら、どうにかして欲しい。
少女はそう思っていた。
高校からの帰りに、少女はその不審者に合う。
狭い田舎だ。
やはり顔見知りだったりもする。
以前あったときは大人しい感じの男だったが、今は見る影もない。
アァー、アァーと奇声を上げ、まるでソンビのように徘徊している。
変な話だが、少女はスマホを取り出し、不審者の家に連絡してやる。
そうするとすぐに迎えに行く、と返事が返ってきた。
そうなってしまったら、少女もその場にとどまるしかない。
このままこの男をほっておいて帰れるほど、田舎は広くないのだ。
連絡するんじゃなかった、と少女は後悔しつつも、距離を少し取って、その男の後をつける。
そうしていると少女も気が付く。
その気が触れてしまった男が、稀に△様と、言っていることに。
少女もその名に聞き思えがある。
近くの山にある神社の神様の名だ。
気が触れた男は、奇声の合間に、△様が呼んでいる、呼んでいる、と、よたよたとどこに行くでもなく、その場を回るように徘徊している。
少女はそれを見て、本当に気が触れてしまったのだと、そう思った。
そうこうしていると男の家族が車で男を迎えに来る。
男を車に乗せて、少女にお礼を言って帰っていく。
一緒に乗っていくか、と少女は自転車だったのでそれを断った。
その夜のことだ。
少女は夢の中で濃い霧に包まれた場所にいた。
そして、霧の向こうに一方向だけ光が射す場所がある。
そこで、自分の名を呼んでいるのだ△様が。
少女は何となく、あの光が射す場所にいってはいけない。
そう思えたのだが、夢の中の少女の体はいうことを聞かなない。
ふらふらと、まるで昼間見た男のように、光が射す場所へと向かっている。
少女は気をしっかり持ち、起きろ、と、何度も念じる。
そうすると、霧が少しづつ晴れていき、少女は目を覚ます。
汗をびっしょりかき、ベッドの上に寝ていた。
そして、少女は直感的に悟る。
このままでは自分も気が触れてしまうと。
そこで少女は考える。
恐らく親に言っても相手にされないし、親にもどうにもできないと。
少女は次の日、学校の帰りに、近くの山にある神社、△様が祭られている神社へと行き、お参りをする。
ついでに境内の掃除もしてやる。
そして、これで勘弁してください。また来ますので。
そう、お参りして神社を後にした。
その後、少女は月一くらいの感覚で、その神社にお参りと掃除をしに行くことにしている。
それであの夢を見ることはない。
ただ、それだけの話だ。
きがふれる【完】




