えがお
男は営業で見知らぬ土地に来ていた。
あまり来たことのない、本当に知らない土地だ。
そこで男は営業をかけれそうなところを見て回る。
男の会社は生鮮食品を扱っているのでスーパーなどが営業先となる。
この地域を一回り歩き、男はめぼしい場所をいくつか見つける。
そして、ダメ元で乗り込んでいくのだ。
だが、この地方はどうもおかしい。
すれ違う人が皆、妙に笑顔だ。
笑顔で男を見て来る。
じっと、まるで監視でもするかのように。
まあ、訪れている場所も田舎なのでそう言うこともあるかもしれない、と、男は気楽に考える。
そう思い、先ずは一番最初に見つけたスーパーへ営業をかけようと、意気込んでいると不意に話しかけられる。
なあ、あんた、なにようだい? と。
話しかけて来たのは手押し車を押しているような老婆だ。
そして、やはり笑顔だ。
男も笑顔で答える。
自分は営業で、この地域のスーパーに商品を卸してもらえないか掛け合いに来た、と。
そうすると、老婆の顔から笑顔が消える。
そして、この土地に引っ越しに来たんじゃないのかい、と、そう言い残しそそくさと去っていった。
男はなんだ、と思いつつも、この地域は過疎化が進んでいるのかもしれない。
そう考えた。
そして、スーパーへと足を運ぶ。
中々好感触だったが妙だ。
スーパーの店長は、色々やり取りがあるだろうから、近くに引っ越してこいと、しきりに言ってくるのだ。
そうすれば、いくらでも商品を仕入れてやると。
この地域は辺鄙だ。
流石にここから会社に通勤はできない。
男は苦笑いをしながら、そのことを告げると、スーパーの店長からスッと笑顔が消え、商談は打つきりになった。
男は落胆したが、なら次の…… と別のスーパーに営業をかけに行くが、今度は門前払いされた。
話も聞いてもらえない。
男が、なぜ? と思っていると、数人の子供が男の元にやってくる。
皆、やはり笑顔だ。
そして、言うのだ。
おじちゃんが次の生贄なの?
と。
男はゾッと背筋が寒くなる。
慌てて男はこの地域から逃げ出した。
男はもう二度との地域に営業をかけることはない。
ただそれだけの話だ。
えがお【完】




