にかい
廃屋のような昔ながらの家がある。
人が住んでいるが、年老いた夫婦で足腰も悪く、その家の二階は今は使っていないのだという。
少女は学校からの帰りに必ずその家の前を通る。
古いその家は確かにボロいのだが、なんというか、言葉に言い表せない風情のようなものがあるのだ。
古い物、ならではの風情だ。
少女は幼いながらにそれを感じていたのだ。
その日も少女はその家を見ながら帰る。
その時だ。
普段は雨戸が閉まったままの二階の窓が開いている。
珍しいと思い、少女は二階を見る。
窓の枠に腰掛けるように白い人影が見える。
女性だ。
長い黒髪の女性が、窓枠に腰掛けるように座って外を見ている。
その女性は白い服を着ていて、全体的に暗めの色の家に良く映えて見える。
少女は老夫婦の娘か孫でも来ているのかな、と、少女はそう思った。
だが、次の瞬間その白い人影は、バランスを崩し下へ落ちていった。
ハッ、となった少女は急いでその家の庭に見に行く。
だが、何もない。
少し手入れができていなく荒れた庭があるだけだ。
少なくとも落ちた人などいない。
少女が呆然としていると、声を掛けられる。
少女が振り返ると、年老いたおじいさんが立っている。
この家の主だ。
少女は慌てて、今見たことを話す。
するとおじいさんは驚いた顔をする。
そして、昔そんなことがあったんじゃ、と、少女の頭を撫でて二階の雨戸を見る。
そうしていると、おばあさんも来て話し出す。
少女は老夫婦の会話に少し付き合い、そして、家に帰る。
それを見送ったおじいさんは首をかしげる。
たしかに、二階の窓から落ちた人はいる。
だが、それで別に死んだわけではない。
今も自分の隣にいるのだと。
そんな話だ。
にかい【完】




