すなば
少女がよく行く公園に砂場がある。
だが、その砂場を使う子供はいない。
とある噂があるからだ。
その砂場は呪われた砂場で、夕方以降にその砂場で遊んでいると、いつの間にかに砂場から、砂の手が生えて来るそうだ。
それで砂の中に引き込まれたり…… ということはないのだが、子供たちは皆、不気味がってその砂場で遊ぶようなことはなかった。
少女もそんな子供達の一人だ。
その公園に遊びにはいくものの、砂場には近寄らないし、少女の友人らも砂場には近寄らない。
その為か、誰も使わないその砂場は、いつもきれいなままだ。
だが、今日は珍しく砂場に人がいる。
クラスの男子達が砂場に集まっている。
少女もそのその集まりのところに行って何があったのかを聞く。
そうするとクラスの男子達は無言で砂場を指さした。
砂場には足跡、それも大人の足跡が残されており、その足跡は砂場の中心に向かって残っている。
その足跡は砂場の中心で止まっており、中心には小さな穴が開いているのが見える。
少女がそれを確認すると、クラスの男子達は口々に言い始める。
誰かが砂場に入った。
噂を知らない大人が砂場に入ったんだ。
あの穴は手が出てきた後だ。
戻って来る足跡がない、きっと砂場に引きずり込まれたんだ。
と、そんなことを口々にする。
たしかに足跡はしっかり残っているのに、戻って来る足跡はない。
少女は、改めて足跡を見る。
なぜかゾクゾクとしたものを感じる。
そして、砂場に空いた中央の穴が気になりだす。
あの小さな穴を覗いたら、手があるのかもしれない、と。
それはクラスの男子達も同じだったらしく、誰が見に行くか、で揉めている。
なんだかんだでクラスの男子達もこの砂場が怖いのだ。
だが、一人の男子が名乗りを上げる。
そして、怖がる素振りなど見せずに砂場に新しい足跡を残し、砂場の中央にまで行き、穴を覗き込む。
さらに砂場の中央に空いた穴に手を突っ込む。
周囲から小さな悲鳴のような声が上がる。
だが、その男子は悠々と笑顔で砂場の穴から、空き缶を取り出す。
そして、これが入ってただけだ、と宣言する。
結局、砂場の足跡は誰かの、この噂を知っている誰かのいたずらではないか、そう言うことになった。
だが、次の日、砂場は綺麗に整えられていた。
誰が整えたのか?
公園に管理人が居るとしても、砂場を綺麗に整えるようなするだろうか?
それは謎のままだ。
ただ、それだけの話なのだが……
この砂場にはまた別の話もある。
けれど、今は話すことではない。
いや、話さない方が、きっと良い。
すなば【完】




