よなかのきせい
アァァーと、奇声が聞こえて来る。
どこからともなく、それでいて良く通る響く声で聞こえて来る。
おおよそ深夜、いや、もう早朝か、三時から四時の間くらいの時間、アァァーと、嘆く様な、ため息に音が付いたような、そんな奇声が聞こえて来る。
男はその奇声でいつも起される。
男からするとたまったものではない。
そのおかげで男は寝不足だ。
そのせいで体調が悪い。
仕事に集中できない。
いつしか、その奇声が男にとって諸悪の根源のようなものになっていた。
何か仕事で失敗したり、上手くいかないと、あの奇声のせいで寝不足だからだ、と。
集中できない時も、体調がすぐれない時も、何か良くないことがあると、男はその奇声のせいにしていた。
あのはた迷惑な奇声は、どこから聞こえてくるのだろうか。
男は不思議に思う。
金曜の夜、翌日予定がなかった男は、あの奇声の元を確かめようとする。
スマホのゲームで時間を潰し、朝四時まで起きているが、毎晩のように聞こえていた奇声は聞こえてこない。
男が諦めて、無駄なことをしたと、そう考えて眠りにつく。
そして、目覚めるのだ。あの、アァァーという、嘆く様な、ため息に音が付いたような、そんな奇声で。
だが、その時、男は初めてその奇声の発生源を知る。
自分だ。
自分の口から、あの奇声は出ていたのだ。
あの奇声は男自身の口から無意識に発せられていたのだ。
男はすべて自分のせいだったのだと、理解し、反省する。
それからだ。
ちゃんと反省した男から、奇声が発せられることはなくなったのだ。
ただ、それだけの話だ。
よなかのきせい【完】




