ゆきだるまさんが
男は寒い中、仕事帰りだった。
その日はとても寒く雪が降った。
男が住んでいる場所では、この時期に雪が降ることもある。
そんなに不思議な事ではない。
と、言っても寒い時期に数度降るか降らないか、その程度の話だが。
まあ、言ってしまえば珍しくはある。
だからだろうか、きっと近所の子供達もはしゃいだのだろう。
道の端に雪だるまがいくつか作られている。
不格好ながらに、枝で手も作られている。
顔の目の部分は、落ち葉かなにかだろう。
今は暗くてそこまでよく見えない。
大きさは男の脛くらいのもので大きい物ではない。
男はそんな雪だるまを微笑ましく思う。
雪だるまの前を通り過ぎて帰路を急ぐ。
雪だるまの前を男が通りすぎて、すぐだ。
ズズズッとなにかを引きずる様な音がする。
男が振り返ると、何もない。
いや、雪だるまが動いている、そんな気が男にはする。
男は首をひねるが、気のせいだろうと、そう思い込む。
そして、止めていた足を動かし始める。
そうすると、また、ズズズッ、ズズズッ、と言う何かを引きずる様な音がする。
男が振り返ると、雪だるまが確かに男の方を向いている。
雪だるまが動いている。今度は間違いではない。
男はハッ、となる。
何なら、雪だるまが動いた後が、雪の上に残ってまでいる。
あの小さな雪だるまが動いた、と、男は考えるが、そんなこと起きるわけがない、と、その考えを打ち消す。
気のせい、気のせい、と、男はそうして再び歩きだす。
そうするとまた、ズズズッ、ズズズッと音がする。
男が振り向くと、雪だるまが動いている。
確かに動いている。
そして、これはまだ気のせいかもしれないが、雪だるまが少し大きくなっている気がする。
動いた場所の雪を吸収しているかのように。
男の背筋にゾワゾワとしたものが走る。
男が少し早歩きでこの場を去ろうと、雪だるまから目を話した瞬間だ。
ズズズッ、ズズズッと何か引きずるよなあの音が聞こえて来る。
慌てて、男が振り返るとやはり雪だるまだ。
雪だるまが男目掛けて進んできている。
進んだ分の、まだ道路にある雪を吸収して、雪だるま自体も大きくなっている。
そのことに、間違いはない、と男は確信する。
だが、男も気が付いたことがある。
目を離したときにしか、この雪だるまは動かないのだと。
要はだるまさんがころんだ、なのだ。
雪だるまだけに。
だが、これはそんな子供の遊びではない。
男は雪だるまから目を離さないように後ずさり始める。
雪だるまは動かない。
やはり見ている時はこの雪だるまは動かないのだ。
男の口から、ヘヘッ、とそんな笑い声が自然と漏れる。
これなら逃げ切るのも余裕だ、と。
そんな男の背中に何かが当たる。
男が驚いて振り返るとそこには雪だるまがいた。
男が目を離さなかった雪だるまとは別の、それは大きな、男の背丈ほどある雪だるまが。
数日後、雪が解けたとき、男の凍死した遺体が道の隅に見つかる。
雪かきで避けられた雪の中に男の遺体はあったのだという。
その近くには雪だるまもあったという話だ。
ゆきだるまさんが【完】




