つめたいかぜ
女は夕方に雨戸を閉めるために部屋の戸を開けた。
その瞬間だ。
物凄い冷気が部屋に流れ込んでくる。
冷たく乾いた冬の外気だ。
その冷気に女は身を震わせる。
まるで雪でも降りそうな、そんな寒さだが、外に雪が降ることはない。
そもそも、女が住んでいる地域ではそれほど雪は降ることがない。
そんな寒さの中、女は深呼吸をする。
一日中部屋の中にいたため、少し息苦しかったからだ。
気持ちが良い、と言うことはなく、あまりもの寒気に外気を吸い込んだ、口が、喉が、肺が、冷たさでじんわりとした痛みを感じるほどだ。
女は少し咳き込み、深呼吸するのをやめる。
既に戸の外は闇の包まれていて、そこには冷たい外気が満ちている。
さっさと雨戸を女が閉めようとしたときだ。
風が吹いてくる。
冷たく刺すような、そんな風が、女の部屋に流れ込んでくる。
あまり物冷たさに、女は急いで雨戸を閉じ、戸を閉める。
そうして、女が一息ついた時だ。
どうしょうもない寒気を女は感じる。
部屋の中に、外の冷たい空気が渦巻いているかのようだ。
まるでつむじ風の様に、部屋の中で風が舞っている。
女は怪訝そうな顔を浮かべながらもこんなことあるのだと驚く。
が、その冷たい風はいつになっても収まる様子を見せない。
女がその風に身を振るわせていると、雨戸を叩くことがする。
そして、カエシテ、カエシテ、カエシテ、と片言の言葉が雨戸の向こうから聞こえて来る。
女は訳も分からずに、けれども直感的に、この部屋の中で拭き続けているつむじ風の事だと理解する。
この部屋の中の風を返さなければならない、そう理解できた。
女は急いで雨戸を開ける。
そうすると、物凄く冷たい風が部屋の中に吹き込んできて、そして、次の瞬間には部屋から外へと吹いて出ていった。
残ったのは女と風で荒れた部屋と夜の静寂だけだ。
ただ、それだけの話だ。
つめたいかぜ【完】




