ともだち
少女が目を覚めると、家には誰もいなかった。
居間のテーブルの上には両親からの書置きで、買い物に行ってきます、と書かれた紙が残されている。
それを見た少女はすぐに和室へ向かう。
そこにいるからだ。
友達が。
それは和室の床の間の角に立っている。
友達は恐らく人間ではない。
けど、家に少女以外誰もいないときに床の間の隅に現れるのだ。
それは大きなまん丸い頭部をしている。
ボロボロの布切れを服のように纏っている。
そんな、人型をしたなにか、としか言えない存在だ。
けど、少女はそれを良い物だと思っている。
少女がそう考えている理由は、それが床の間にいることだ。
少女の考えでは、床の間は神様のいる場所とそう考えていた。
だから、床の間にいるそれも神様か、それに類するものだと、少女はそう考えていたのだ。
少女はそれに話しかける。
ただ、それが少女に反応することは一切ない。
少女を見つめ、少女の話をまん丸い無表情の顔で聞いているだけだ。
ただ、それだけの存在だ。
なぜ少女しか家にいないときにしか現れないのか、それは少女にも分からない。
そういう物なのだろうと、少女は解釈している。
少女は親が買い物に自分を置いて行ってしまったことを愚痴る。起こして一緒に連れてってくれれば良いのに、と。
そう言う風に少女は一方的に、それに話しかける。
それも黙って少女の話を聞く。
相槌もしない。
ただ少女を見つめ、少女の話を聞いている。
それだけの存在だ。
少女が一方的に話していると、ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
玄関のドアを開けると、二人の男が門の向こうに立っていた。
そして、その男の一人が、親は? と少女に聞く。
少女は買い物に行っていると、素直に話す。
そうすると男たちはニヤリと笑う、そして、我々は役所の方から来た者なんですが、検査のために家に居れてくれと、そう言った。
少女は頷き、疑いもせず男二人を家に入れてしまう。
男二人が家を物色しようとした時だ。
和室の床の間にいる存在に気づく。
男はそれを見て悲鳴を上げる。もう一人の男もすぐに戻ってきて、床の間のそれを見る。
そして、やはり悲鳴を上げて逃げ出していった。
それは床の間の隅に立っているだけだ。
何もしていない。
ただ、大きな丸い、まん丸い無表情な顔でこちらを見ていただけだ。
それだけの話だ。
ともだち【完】




